羽生の法則 1 歩の手筋

作成日:2004.01.10
羽生の法則 Volume1
著者 :羽生 善治
出版社:マイナビ出版(日本将棋連盟)
出版日:2003-12-01
価格 :¥1,430(2024/09/01 06:55時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

『羽生の頭脳』を彷彿とさせる、なんか大作の予感がするタイトルだ。
1.と連番がついていることからも今後どんどん出版されていくことはほぼ確実。谷川の『光速の寄せ』のような、万人に愛されるシリーズになって欲しい。

内容としてはタイトル通りとしか言いようがなく、歩の手筋をいろいろ集めている。『歩の玉手箱』のような本を想像していただければほぼ間違いではない。
よく整備され、見開きで1手筋という読みやすい形式にした努力も買う。級位者でもラクに読みこなせると思うし、電車の中や待ち時間にさっと1ページ、という使い方もできるだろう。
ただ、実際に手を取ってみると(すんません立ち読みです)、そんなに「系統立てて」整理している感じがしない。
分類はされている。それは間違いない。ただ、いろんな手筋が雑多に混じっている気がする。

それと、白砂が『将棋は歩から』に心酔しているからかもしれないが、何の前置きや解説もなしに、いきなり手筋そのものの解説をして、それで級位者が判るのだろうかという危惧も持っている。
『将棋は歩から』では、歩の手筋が項目ごとに分類されており、項の始めに数ページを割いてこの手筋はどういうもので、どういう効果があり、どういった局面で使うかという総論が入る。続けて部分図で手筋のメカニズムを解説し、そして最後に実戦譜でその効果を確かめる、という構成になっている。
学術書のような構成で、白砂は法学部だったのだが法律書ではこういった方法が取られることが多い。これなら、何も知らない人でもスッと理解できる(文章の難易は別にして)。
ところが、カタログ的な本の場合、始めの解説もなくいきなり手筋のメカニズムの解説に入る。そのため、「そういう手筋があるな」というのは理解できても、「それをいつどこでどう使えばいいのか」という肝心の点については理解が得られないのではないか、という疑問を持ってしまうのだ。

例えば、プログラムリファレンスや構文辞典といった本がある。プログラムの命令文やメソッド・プロパティなどを列挙して簡単な解説を加えるものだ。
それらの本を読んで初心者がプログラミングできるか、といったら、まずできない。そのような使い方をする本ではないからである。こういった本は、「あ、あれなんだっけ?」という時の確認に使う本だからだ。
それと同じように、本書もまた、完全な初心者が読む本ではないと思う。むしろ、3、4級から2段くらいまでの人が、棋書などで一度は目にしたことがある形を再確認する本だ。

使い方としては、級位者はまず『将棋は歩から』を読みましょう。
きっと難しいです(笑)
けれど、教科書を読むものだと思って頑張って最後まで読みましょう。読めばいいです。理解する必要はありません。
そしてそのあと、本書を読みましょう。
「なんで『将棋は歩から』ってのはこんな簡単なことを難しく書くんだよばかやろう
と思えるでしょう(笑)。

本書は、こういうように「一度見たことがある手筋を、判りやすく提示する」本だ。

逆に、初段前後の人だと、「似たような形での新手筋」を拾えるかもしれない。
歩の手筋はバリエーションに富んでいる。一口に垂れ歩の手筋といってもさまざまな効果や狙い筋がある。垂れ歩、という言葉や効能は知っていても、その全てを知っているわけではないかもしれない。
そんな人に、手軽に、「あ、こんな手もあるのか!」と思わせてくれるかもしれない(笑)
カタログ的で読みやすい、というのは、そういうメリットもある。
というか、おそらく本書のメインターゲットは、そのくらいの棋力の人だと思われる。だからこそ、敢えて分類はしているが整理していない雑多な形式にしているのだろう。