著者が、自身が務めたNHK将棋講座をまとめたもの。
序盤、中盤、終盤それぞれについての基礎的な知識と考え方が書かれている。
内容は、
- 序盤
- ・開始4手による17種類の戦型分析
- ・玉の囲い方
- ・矢倉戦、対抗型における考え方
- 中盤
- ・位の重要性と対抗法
- ・仕掛けのタイミング
- ・攻めと受けの考え方
- ・形勢判断の方法
- 終盤
- ・速度の概念
- ・詰みについて
- ・終盤での方針
といったところ
講座で細切れに解説する必要があったからなのだろうが、コンパクトにうまくまとまっていると思う。
個人的には、中盤での形勢判断法として紹介されている「働いている駒をカウントして、多い方が有利」という簡便法が目からウロコだった。もちろん、ものすごい正確な判断法でないことは少し考えれば判ることではあるのだが、初心者にとって大事なのは「形勢判断をする」ことそのものなのだから、その方法はできるだけ簡単な方がいいに決まっている。遊び駒は悪いものであるということも分かるし、これはいい方法だと思った。
また、これは一例だけだったのだが、駒の損得と形勢判断について、とても詳細に解説しているのもよかった。
第1図。▲2三歩成というおいしい手が見えるが、それに飛びついていいのか? という問題だ。
▲2三歩成に△同金▲同飛成は先手がおいしすぎる展開でそう進めばなんの問題もないのだが、当然後手は反発してくる。▲2三歩成に対して、△2五歩▲同飛△3四銀(第2図)という手順である。
これで飛車と「と金」の両取りで、後手は受け切ることができる……と、まぁよくある入門書だと解説はここで打ち切りだろう。もう少し踏み込んで、▲3二と△2五銀(第3図)と進んだ局面を解説するくらいか。先手は金と歩を取って、プラスと金を作った。後手は飛車を取った。この取引ならまぁ互角くらいでしょう、と。
しかし本書では、第3図から「今後、先手のと金や後手の持ち飛車がどう働くか」を示し、そこまで踏み込んで形勢判断を考えよう、としているのだ。
具体的には、
- 先手は▲2一とと駒得することができる。
- しかし、と金が2一へ行くのは駒の効率からすればマイナスである。
- 後手は飛車を打てば桂香を取り返すことができるので、と金で桂香を取っても一時の駒得にしかならない可能性がある。
- よって、先手のと金と後手の飛車が、それぞれどのように働くかを判断する必要がある。
と、こういう具合に話を進めている。
初級者どころか、中級者くらいであってもかなり高度な話だと思うのだが、しかし、こういう風に形勢を判断していくことはとても大事なことだとも思う。たった一例ではあるけれども、基礎的な解説の中にも、このような上級者になるための指針のようなものが書かれているのはすごいと思った。
その他にも、「美濃囲いで飛金と角銀、どちらを渡しても大丈夫か考えるべき」など、中級者以上の人にも参考になる内容も数多い。
タイトル通り、まさに「本筋を見極める」内容の数々。級位者はもちろん、3段くらいまでの人は、一度は手に取ってみる価値はあると思う。