2011

新・対局日誌 第2集 名人のふるえ

新・対局日誌 第2集
著者 :河口 俊彦
出版社:河出書房新社
出版日:2001-06-01
価格 :¥226(2024/09/01 00:15時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

「将棋マガジン」に連載されていた「対局日誌」を書籍化したもの。第2集は昭和62年度。中川・先崎が奨励会から上がってきた年である。もう少し古い人には、芹沢逝去の年、と言えばいいかな。古い。

対局日誌の常で、筆者である河口老師の「おじさん説教」がとてもウザい。それがなくて実戦から取った手筋集、と考えれば非常にいい本である。なので、生暖かい目で見ながら読むべき本だろう。

どうでもいい昔話をひとつ。
P.57から、米長-泉(十段←竜王戦の前身棋戦)戦を取り上げている。終盤、米長が絵に描いたような手筋を喰らって逆転負けするのだが、そのとき、米長はこんなことを言ったという。
「いや、(その手筋を喰らった局面で)私の玉は寄らないと思っていたんだ」
ここから、河口老師は、米長は人と考えることが違う、なんなとんでもないことを考えていて、今回はたまたまそれが裏目に出ただけだなどといろいろと書いているわけだが、実は、これについて、「盤側にへばりついている(開始から投了までずーっと盤側で観戦している人、という意味。普通はちょこちょこ見に行く程度なものらしい)」観戦記者の三宅正蔵が、近代将棋の付録で真相を語っていた。
……で、それは実は……とご紹介できればいいのだが、残念ながらすっかり忘れてしまった。ごめん。
興味のある人は、昭和62年頃の近代将棋の付録冊子を調べてみると載っているはずだ。当時、読んで「なるほど」と思った記憶がある。

もうひとつどうでもいい話をすると、P.68の▲1五角は△1五角の誤植だと思う。
ホントにどうでもいい話で申し訳ない。

作成日:2011.09.20 
読みもの

新・対局日誌 第1集 二人の天才棋士

新・対局日誌 第1集
著者 :河口 俊彦
出版社:河出書房新社
出版日:2001-04-01
価格 :¥345(2024/09/01 17:25時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

河口老師による、1986年(!)の将棋界を書いている。もう四半世紀も前である。大山が63歳で名人挑戦をした年。羽生が4段になり晴れてプロデビューした年である。もう歴史以外の何物でもない(笑)。
また、河口老師の将棋観というか、「今の若手は個性がなくてツマラン」的な文章がそこかしこに出てくるので、それが気に障る人は最初っから読まない方がいい。年寄りの繰り言をさらっと聞き流せる人でないと、まともに受け止めてしまって読み進めるのが辛いと思う。大体、個性がないとか言いながら、使っている将棋は「石田がポカやって愚痴ってる」とかそんなのばっかりで(笑)、おいそれ個性かよ、と。いや、まぁ、個性なんだけども。

ただし、それとおんなじくらいの割合で、実戦的な指し方やちょっといい手筋の紹介などもあるから侮れない。そういうところはさすがプロが書いているだけのことはある。白砂もそれが面白く、「白砂ノート」ではたびたび題材を拝借した。
初段くらいまでの人は、ちょっと我慢して読んでみると、もうワンランク強くなるかもしれない。

作成日:2011.09.12 
読みもの

【決定版】駒落ち定跡

【決定版】駒落ち定跡
著者 :所司 和晴
出版社:マイナビ出版
出版日:2010-09-28
価格 :¥8,404(2024/08/31 17:15時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

8枚落ちから香落ちまで、駒落ち定跡を網羅したような本。
定跡手順をちゃんと解説していること、前書きに「3枚落ちと5枚落ちを外し、8枚落ちを加えた」とあることなどから、おそらく『将棋大観』を意識して書かれたものと想像する。

なので、いい点は『将棋大観』と同じで、基礎的な駒落ち定跡が覚えられること。本書を読めば、「なんで駒落ちを指すか」がよく判ると思う。定跡手順だけではなく、「ここではこう考えて攻めましょう」「こういう方針で玉を寄せましょう」といった言葉がそこかしこに出てきて、「なるほど、こういうことを勉強するために駒落ちを指すのか」というのがよく判る。
ただし、逆に言うと、そういう「駒落ち定跡」の解説しかしていないので、白砂のように『定跡なんかフッとばせ』から駒落ち定跡を勉強したような人間だと、本書は「定跡のウソ」だらけの本に見える。いや、そこまで言うのは言い過ぎではあるのだが、『定跡なんかフッとばせ』や、本書よりあとの出版だが『最強の駒落ち』のような本と比べると、かなり作り物くさく感じる。

なので、勉強をするのに本書を手に取るのは悪くないと思うのだが、本書をうのみにするのはよくないと思う。
できれば、前述の2冊を同時に読み、「実戦力」を身に着けてほしい。

作成日:2011.09.12 
駒落ち

阿久津主税の中盤感覚をみがこう

阿久津主税の中盤感覚をみがこう (NHK将棋シリーズ)
著者 :阿久津 主税
出版社:NHK出版
出版日:2010-12-14
価格 :¥418(2024/08/31 16:50時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

「アッくんの、めぢからあ(棒)」でお馴染みだった(そうか?)アッくんこと阿久津主税のNHK将棋講座が本になったもの。
講座は見ていたのだがテキストは買っていなかったので、どれくらい加筆されているのかどうかは残念ながら判らない。

内容は、中盤での戦い方の解説、ということになっているが、升田式石田流の形から▲7七銀~▲8六歩と攻めるものや、矢倉▲3七銀戦法で▲1五歩と端歩を詰めた場合の攻め方や▲6五歩と突く宮田新手など、定跡の続きといったものも少なくない。もちろん中盤での戦い方であることに変わりはないのだが、『金言玉言新角言』とか『羽生の新格言集105』みたいな本を期待するとちょっとがっかりするだろう。
むしろ、有段者用の突き詰める定跡書ではなく、そういう定跡書で「この手は後手不利になる」とさらっと書いてあるところを補足する、といった趣が強い。

それぞれの項頭に見開きでポイントの局面を載せ、「いい局面」「悪い局面」を事前に提示したり、その局面の差を判りやすくするために悪い局面の方はグレーの網掛けで表すなど、細かい部分にも気を使ってわかりやすく表示しようと頑張っている意志を感じた。本文の行間を通常よりやや広くして見やすくしてあるようにも感じたし、フォントやポイント数などもかなりいろんな種類を使っている気がする。それらが合わさって非常に「見やすい」本になっていて、これは評価したい。
ただ、ちょっと不満だったのが、見開きの部分の「悪い局面」のところ。全部で6図面あって、いい局面悪い局面が3図ずつある。基本的には1対1に対応している(こう指すのがいい、というのと、こう指しちゃだめ、というのが対応している)のだが、場合によっては悪い局面が進んでいく過程を表していくときがある。悪い局面1があるとして、そのまま進むと局面2、さらに進んで局面3、といった具合だ。これは、さきほどの説明にある1対1とは違う表現法になっている。
矢印で流れが表現されているので、ちゃんと読めば判ることなのだが、ここはちょっとムリでも統一してほしかった。それか、もう少し矢印を大きくして「対応」なのか「流れ」なのかを明確にするとか。ちょっと意地悪なことに、2図面は流れで1図面は対応、なんていう場合もあったりするのだ(P.226など)。

まあそんな細かい部分が逆に気になってしまうくらい、「ちゃんとした」本に仕上がっていると思った。もう少しこの形式のレイアウトの本が出てもいいんじゃないだろうか。「棋書アレルギー」の人にこそ読んでほしい一冊だ。

作成日:2011.09.12 
大局観

よくわかる振り飛車穴熊

マイコミ将棋BOOKS よくわかる振り飛車穴熊
著者 :佐藤 和俊
出版社:毎日コミュニケーションズ
出版日:2011-05-25
価格 :¥85(2024/08/31 14:33時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

「よくわかる」シリーズ第2弾とのことで、アマチュアには嬉しい振り飛車穴熊。広瀬が王位を取った原動力にもなった戦法で、最近急にプロでもクローズアップされている。

内容は四間飛車穴熊と三間飛車穴熊。それとちょっとだけだが、穴熊の終盤講座として穴熊の優秀性を説き、布教活動をしている(笑)。
詳しく言うと、

  • 四間飛車は「居玉棒銀」「△3一銀型棒銀」「棒銀」「ナナメ棒銀」「玉頭位取り」「銀冠」「相穴熊」「対矢倉」。
  • 三間飛車は「対△6五歩早仕掛け」「対左美濃」「相穴熊」に加え、矢倉流のような四間飛車への組み換えと、石田流。
  • 終盤講座は美濃囲いとの比較によりゼット(絶対に詰めろがかからない形)に持ち込みやすいということ、ゼットの状態から攻めること、ゼットを作ってから攻めに行くこと、ゼットを作って受けること、など。その他、穴熊で目を配るべきマス目や実戦解説など。

となっている。

これだけのことを盛り込んでいるので、もちろん内容そのものは本筋だけをカタログ的に紹介するに留めている。ただし、頻出する形をうまく取り上げている(例えば、四間飛車に△6五歩急戦の形は載っていない)ので、振り飛車穴熊を指すには困らないはずだ。
また、居玉で棒銀、△5三銀と備えない単純棒銀(△3二玉まで囲ってあとは一目散に棒銀に来る形)、矢倉など、級位者が「猪突猛進してくる」攻め筋についても紹介し、さらに受け方を教えている。これはいいと思った。対居玉棒銀などは実は穴熊に囲ってすらいないのだが(笑)、やられて困ると思っている人には嬉しい解説だろう。
一方、三間飛車穴熊については「定跡化が進んでいないので……」と素直に述べている通り、形を解説するだけに留められている。類書もあまりないので、できれば別の形でもいいから一冊本を出してほしいところだ。

有段者であれば『四間飛車穴熊の急所』などでもっと深く勉強すべきかもしれないが、4段くらいまでなら本書で形を覚え、あとは実戦で殴り合って吸収して行くことで自分のものにできるはずだ。
近年振り飛車穴熊は不遇の時代を過ごしていた(と思う。白砂は穴熊は指さないので)。
かつての『史上最強の穴熊』のように、「穴熊の反撃」となればいいと思う。

作成日:2011.09.05 
穴熊
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