2015

佐藤康光の矢倉

佐藤康光の矢倉 (佐藤康光の将棋シリーズ)
著者 :佐藤 康光
出版社:毎日コミュニケーションズ
出版日:2011-03-24
価格 :¥1,650(2024/08/31 15:10時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

四間飛車藤井システムを開発した藤井が、矢倉で新機軸を見せた「矢倉藤井システム」について解説した本。なんで佐藤が解説するのかはよく判らないのだが、内容はいいからまぁよしとしよう(笑)。
そしてまたなんでか判らないのだが、森下システムとセットになっている。単純に考えると双方ともに1冊の本にするには苦しく、合わせて出版した……ということなのだろうか、内容はいいからまぁよしとしよう(笑)。

矢倉藤井システムについては、基本的な形の解説から後手の対策までをいろいろ解説している。
森下システムは、ざっくり森下システムが消えた理由を紹介した後、復活の一因となった深浦流の▲5三歩から▲5四香、それを避けて後手が△4三金右と変化する指し方を解説している。
講座編で飛ばした部分を実戦編で紹介する、という、一風変わったシステムの本で、定跡本として読むと少し「とっ散らかった」印象を受ける。白砂は体系的に読んだ方が理解がしやすいクチなので、よりそう感じたのかもしれないが。とりあえず、講座編で「先手ピンチ。対策は実戦編で」はやめようよ(笑)。

解説そのものはとても丁寧で、重要な部分では2、3手で1ページくらいのペースで進むため、初級者でも判りやすいと思う。実戦編の方でもそれくらいのペースで解説してくれるのは少し驚いた。ただ、それならやっぱり体系立ててきちんと解説してくれた方が……と思ってしまった。また、ほんの少しの工夫なのだが、それぞれの解説の概略部分では行間を少し広げて読みやすくしてくれている。これはいいアイディアだと思った。

棋書としてはきちんとまとまっていて、ちゃんと藤井システム・森下システムが理解できる良書だと思う。

ただ、ちょっと卑怯な話なのだが、個人的なことを言うと、実は以前、藤井自身による解説会に参加したことがあるのだ。その時は(当たり前だが)本人から口頭で講義を受けたのだけれども、それがまたとても判りやすかったのである。その講座の内容と比べてみると、やはり「藤井流とはどういうものなのか」という大事な部分についての解説が少ないと感じた。一応10-11ページで解説はしているし、19ページでも補足はしてあるのだが、言葉だけではなく手順や図など、もう少し工夫があればなぁ……と思う。
もちろん、これはあくまでも個人的なバックボーンあっての感想であるし、解説が判りやすいことは確かである。初級者から有段者まで、しっかりと役に立つ棋書であることは間違いない。

作成日:2015.02.14 
矢倉

菅井ノート 後手編

菅井ノート 後手編 (マイナビ将棋BOOKS)
著者 :菅井 竜也
出版社:マイナビ
出版日:2012-09-27
価格 :¥759(2024/09/01 03:54時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

NHKの冒頭インタビューを観て以来、というかその際に聞き手の矢内が「だいじょうぶ、すぐ終わるから」と励ましたという逸話を聞いて以来、夫婦でファンをやっている菅井(<どういう説明だ(笑))の著書。振り飛車党でもあり、超速対策として自らの名を冠された「菅井流」を生み出した開発者でもある。

内容はほぼvs超速。

菅井流
▲3七銀に△4四歩と突く形。続けて▲4六銀なら△4五歩と引っ張り込んで攻めよう、という大胆な構想だ。▲7八銀型の対策にも触れている
△3二金型
いきなり後手が5筋を交換する形に対して、先手が▲5五歩とフタをする手と、2枚の銀で中央を制する形。また、少しスピードは落ちるが、▲5八金右まで囲う形や、端歩を突き合う形にも触れている。
△3二銀型
△3二金型と同様に5筋の歩を交換し、先手が2枚の銀で中央を制する形。後手の形の違いが問題となる。
銀対抗型
▲4六銀に△4四銀と受け止める指し方。穴熊の戦いになる。
一直線穴熊
前章をもっと先鋭的にして、超速を捨ててでもとにかく穴熊に囲う、という指し方。▲8八銀と上がらないことで、角頭を攻められた際に▲8八角と引くことができる、というう工夫により注目された。
その他
343戦法の改良形、少し古い5筋からの攻め筋など。

現在(2015年)ではあまり見られなくなったゴキゲン中飛車だが、この当時(2012年頃)は、ゴキゲン中飛車に対して超速という特効薬ができたと、振り飛車党も居飛車党もこぞってこの戦形を指していた気がする。

『島ノート』ほどではないが、上記で説明した通り、それぞれの形について詳細に解説されている。図面の挟み方や文字フォント、行間に至るまで、とても丁寧に仕上げられた本である。
繰り返しになるが現在ではやや下火になっている感がある戦法なので、今これを読んでゴキゲン中飛車党になる! という人はあまりいないだろうが、飛角が乱舞する振り飛車らしい振り飛車なので、指してみると楽しめると思う。振り飛車の勘所をこの戦法でつかんで、他の戦法、例えば角交換四間飛車などに移行すると、その感覚の同じところと違うところが判ってより一層指し手に深みが出るだろう。
そういう意味では、内容は有段者向けの本なのだが、むしろ初段前後くらいの居飛車党にお勧めしたい。居飛車らしい緻密さだけではなく、振り飛車流の「いい意味でのおおざっぱさ」がきっと掴めると思う。

作成日:2015.02.12 
振り飛車全般

久保&菅井の振り飛車研究

久保&菅井の振り飛車研究 (マイナビ将棋BOOKS)
著者 :久保 利明
出版社:マイナビ
出版日:2015-01-23
価格 :¥1,694(2024/09/01 14:20時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

現在A級唯一の振り飛車党である久保と、最近は居飛車も指していて不純粋な振り飛車党である菅井が、指定局面について自分の意見を述べる、という体裁で書いた本。
冒頭で言われているように要するに『将棋世界』の「イメ読み」の2人版なのだが、それぞれが独自の見解を述べた後、2人でいっしょに解説する、というフェーズがあるのが新しい点である。

取り上げるテーマ図は7種22テーマ。ちょっと数は多いが羅列すると……

ゴキゲン中飛車
超速の変化から、「菅井新手△2四歩」と「▲4六銀△4四銀対抗形」。▲5八金右の超急戦から、▲3三香の変化。両者の見解が一番分かれているのが本章だと思う。菅井が意外と「やれない」と考えていることに驚いた。指した当人なのに(笑)。
石田流
4手目△3二飛と、似たような変化で早石田に組んだ形。先手石田流で▲6五歩△同歩▲同桂と攻める形。
角道オープン四間飛車
角交換四間飛車の藤井手筋である▲2四歩に対する△2二歩という受けについて。もっと言うと、△3一金という形にも触れている。あとは、早い▲4六歩に向かい飛車にせずそのまま四間飛車で後手から攻める形と、藤井-羽生戦の向かい飛車+筋違い角の局面。
向かい飛車
ダイレクト向かい飛車に▲6五角とする形。対向かい飛車で▲2八飛と戻る「菅井流2手損居飛車」。升田流向かい飛車を更に斬新にアレンジした「久保流急戦向かい飛車」。……升田流向かい飛車っていうのが死語かなぁ(笑)。
先手中飛車
先手が5筋と7筋の位を取って、▲5六飛とする形。電王戦の菅井vs習甦戦。超速とは違うが、▲6六銀△6四銀と、銀がにらみ合う形。
相振り飛車
▲8五歩としておきながら▲6八飛と回る西川流▲8五歩型四間飛車。先後同形の相金無双。後手が早い段階で△4四角として、端攻めを含みにする向かい飛車。
昭和の定跡
山田定跡、鷺宮定跡、▲4五歩早仕掛け、棒銀の4つの急戦策。

かなりのボリュームで、それぞれ興味深い局面が並んでいる。

最先端の形が多いが、中には「いくらなんでもこれはテーマとしてピンポイントすぎないか」というものもあった。例えば石田流先手番の変化とか。これが通らないと振り飛車側はかなり手前で変化する必要があるので、重要なテーマではあるのだろう。それは判るのだが、いかんせんレアすぎる気が(笑)。また、逆に角交換四間飛車の変化で▲2四歩に△2二歩という形は? と聞かれても、そんなん知らんがなという感じになってしまいそうで、もう少しなかったのかいいテーマは、と思った。藤井-羽生戦もかなりなレアケースで、あまり「テーマ」という感がなかったし。
と、いくつか不満があったものの、大部分のテーマは素直に楽しめた。

特にヒットだったのが最後の「昭和の定跡」の章で、居飛車穴熊以降の世代である菅井と、居飛車穴熊以前の世代である久保の感想の違いにはビックリした。特に菅井。「急戦の定跡は知らない」「でも玉が固いし捌けているから振り飛車がいいでしょ」のオンパレード。読みながら何度も微笑んでしまったけれど、実は昔の振り飛車ってそうだったんだよね。なんだか「振り飛車のよさ」に改めて気づかされた感じがした。まぁ、居飛車穴熊以前の世代でありながら、7七桂戦法を指しているせいで△3二金という形に何の違和感も持たないという、ある意味両方の気持ちが判る人間なので、よりいっそう楽しめたのかもしれないが。

もう少し個人的なことを言わせていただくと、本書を読んでから少しだけ細かく分析してみて、実は白砂は久保派の振り飛車党だったんだなぁ……と思った。感覚というか、局面の良し悪しの捉え方がなんとなく似ているように感じたのだ。
例えば、本書の中で、同じ振り飛車党の藤井の名前が何度か出てくるが、どちらかというと「別のカテゴリ」的な扱いをされている(ように思えた)。「これは藤井だから指しこなせる」とか「藤井はこの局面がいいと思っている」とか。藤井を振り飛車党の第一人者としてリスペクトしつつも、自分の感覚だとちょっと違う、同じ振り飛車党でもやっぱり違う、という認識なのだな、と感じた。で、そうやって分類すると、白砂は振り飛車党でもどちらかというと久保寄りなのかなぁ……と。局面の感じ方についても、例えば▲6五角急戦とかゴキゲン中飛車の超急戦なんかが実はイヤだとか、攻めというよりは捌きが好き、みたいな、そういう感じが似ていると思った。

そういう視点で見てみると、本書には振り飛車党のスピリッツがそこかしこに出ていて、初段くらいの振り飛車党であれば、細かい変化はすっ飛ばして2人の掛け合いを一読するだけで間違いなく強くなると思う。振り飛車党から見て、どういう局面を「捌けている」「こっちが指しやすい」と捉えるものなのか、大局観がきっと身につくだろうから。
掛け合いと言えば、本書の2人のやりとりもとても楽しめた。特に、電王戦の菅井vs習甦戦あたりのくだりは必読である。できればこれは映像化すべきなんじゃないのかと本気で思ってしまったが、カメラが入るとすがちゃんはダメなのかなぁ……と思い直してその考えはすぐ捨てた(笑)。

級位者くらいだと少し難しい内容かもしれないが、少しガマンしてでも、上記のように難しい変化は読み飛ばしてでもいいから、振り飛車党であれば一度は読んでみてほしい。有段者にとっても参考になるだろう。良書だと思う。

作成日:2015.02.06 
大局観

現代横歩取りのすべて

現代横歩取りのすべて (マイナビ将棋BOOKS)
著者 :村田 顕弘
出版社:マイナビ
出版日:2014-10-23
価格 :¥1,749(2024/08/31 15:10時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

升田幸三賞を受賞した「横歩取り5二玉型」をメインに解説した本。メインに、と書いたのは、それ以外にも、横歩取りの基本となる話をいろいろと解説しているからである。

内容は

横歩取りを避ける変化
▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩となったら、横歩取り以外は損だという解説。
5二玉型以外の横歩取りについて
△2三歩型や△4五角型などについて。
5二玉型
本書のメイン。△5二玉とした基本図から、▲5八玉、▲6八玉、▲4八銀の3つの変化を解説。
5二玉型最新形
リアルタイムで研究が進んでいて、まだ結論が出ていない形を中心に紹介。
青野流
先手が▲3六飛と引かず3四飛で頑張る形。

かなり色々な内容で、特に最初の2つは、相横歩や△4四角型などを含め、本気で解説したらこれだけでまとめて1冊できそうなくらいのものである。まぁ、昔は『横歩取りは生きている』とかあったしなぁ(遠い目)。
メインの5二玉型は、△2三銀から△2四飛とぶつける筋が中心になる。8五飛戦法の頃の5二玉型は(ものすごく乱暴に言ってしまうと)4一玉型の囲いの修正だったわけだが、8四飛型での5二玉型はそもそもの攻め筋からして違っていて、かなりとんがっている感じがする。
その他、YSS新手や菅井流の歩を打ってしまう形など、最新の形にも触れている。こちらは「紹介」程度の内容ではあるが、どちらが有利と断言できないのであれば紹介だけしとくね、という、ある意味潔い態度ではある。

特にメインの5二玉型については、それぞれの微妙な形の違いを判りやすく解説していてとてもよかった。
また、変化のチョイスというか、実戦で使ってみたくなるような面白い手順を数多く紹介していて、すごくこの戦法の勘所が判っているなあと感じた(上から目線に聞こえたらすいません。そういう意図はありません)。

とりあえず本書を読めば、初段くらいまでの人でも横歩取りの乱戦を楽しく戦えると思う(殴り合いなので勝ち負けは別ね)。有段者の人でも、最近の横歩取りの情勢には一通り触れられているので、一読しておくと自分の頭の中がすスッキリすると思う。もっとも、横歩取り党の有段者はこの辺りはキッチリ整理済みなのかもしれないが。門外漢の白砂だから特にそう感じてしまうのかな(笑)。
最新の戦形の解説をタイムリーに出した良書だと思う。だったらお前もタイムリーに紹介しろというツッコミはすいませんナシの方向で。

作成日:2015.01.22 
横歩取り

振り飛車党必読! 現代振り飛車はこう指せ!

現代振り飛車はこう指せ! (マイナビ将棋BOOKS)
著者 :佐々木 慎
出版社:マイナビ
出版日:2015-01-15
価格 :¥609(2024/08/31 15:28時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

第72期順位戦C級1組(平成25年度)最終戦、著者は残念ながら負けてしまい8勝2敗で終了した。ところが、昇級を争っていた中村(太)もやはり負けて同星の8-2となり、順位の差で昇級という劇的な結果となった。本書は、その順位戦の自戦解説(14567810局目)が中心となっている。
その他、ページ後半半分くらいで、角交換四間飛車と左穴熊、先手中飛車の3つについて軽い解説がある。

著者が振り飛車党であるので、タイトルがこうなっていたとしてもまぁ詐欺だとまでは言わないが、手に取って中を読むまではこれが自戦記集だとは気づきにくい。というか気づかなかったorz。後ろに講座があるとはいえ、こういう形式の本はどうなんだろうという気がする。
もっとも、解説している3つの戦形はそれぞれ力戦形でもあり、実戦譜で解説を補う風になってはいたので、まぁ意味があったのかなとは思う。
ただ、それならばそれでもう少しリンクを強くしてほしかった。講座と実戦譜の掲載順を逆にして、解説の中で「ここでこう指された場合にはこれで先手が有利になります。詳細は○ページの自戦記を……」くらい書いておくだけでイメージがだいぶ違うはずだ(なんかそれはそれでやっつけ仕事っぽい言い方だが(笑))。

定跡解説の方は、3つの戦形共にそんなに深い解説ではなく、ちょっと都合がいい手順も多い気がした。例えば、角交換四間飛車で頻出する△3五歩▲同歩△同銀に▲6六角△4四角▲同角△同銀という手順が載っていない。その代わり、判りやすい手順が続くので、戦法の「勝ち方」は判るからそれはそれでいいと思う。初段くらいまでの人は一度読んでみるといいだろう。
ただ、今はこの3つの戦法については良書も出ているので、本書をあえて選んで読むべきかというとちょっと……と思ってしまう。自戦記集に、ちょっぴりお得なおまけつき、程度の認識でいるのが一番平和なんだろうか。

正直に告白すると、買う前にパラパラ……とめくって自戦記集であることに気づいて買うのをやめてしまったのであまり強いことは言えないのだが、繰り返しになるがちょっとこういう形式の本というのはどうなんだろう、と思った。まぁ、白砂が棋譜集をあまり評価していないからよりそう思ってしまうのだが、やっぱり棋譜集というのは数は売れないんだろうなぁ。

作成日:2015.01.19 
振り飛車全般 実戦譜集
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