2015

最新戦法の話

最新戦法の話 (最強将棋21 #)
著者 :勝又 清和
出版社:浅川書房
出版日:2007-04-01
価格 :¥1,650(2024/08/31 21:31時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

現在、プロの間でよく指されている戦法(情けないことにこの文章は2015年に書いているので、8年も前のことになるが)について、どうしてそういう形、手順になっていったのかを判りやすく解説している本。元々、『将棋世界』に連載されていた講座を再編集し、プラス3つの新章を加えている。

内容は、「矢倉」「一手損角換わり」「8五飛戦法」「藤井システム」「ゴキゲン中飛車」「石田流」「コーヤン流(三間飛車)」「相振り飛車」とバラエティに富んでいる。ほとんどは同時よく指されていたものだが、藤井システムのように「指されなくなった戦法」もある。振り飛車が多いのは、天敵居飛車穴熊対策としていろいろな振り飛車が試されていたからだろう。

とても高度な内容のはずなのだが、不思議と読みやすい。定跡書ではなく、解説書に近いからだろうか。「プロ間では指されなくなりました」という感じで変化はかなり飛ばして、本筋の変化、新手合戦の部分のみを紹介している。なので、本書を読んでそれらの戦法が指しこなせるというわけではなく、本書を読むと現在のプロの最先端がよくわかる、という本だ。
それでも、本筋の変化はキッチリと押さえているので、本書でざっくりと流れを押さえておいて、あとでそれぞれの戦法の定跡書を読めば、より深く理解が得られるだろう。本当に丁寧にまとめられている。

また、戦法そのものの解説だけではなく、プロが将棋をどう捉えているのかについてもよく触れられている。「指し手の優先順位を考え、後回しにできる手は後回しにする」「禁忌はなく、どんな手・形でもきちんと精査する」といった考え方は、実際に将棋を指す上でもとても役に立つだろう。また本書では、プロ棋士達がそういった考えの元で、現実に数々の戦法を進化させていった様が、ドキュメンタリーのように語られる。
そういえば、本書で特徴的なのは、実際にプロ棋士にインタビューをしているという点だろう。まさにその道のプロに話を聞き、戦法の勘所や新手を思いついた背景など、貴重な話がポンポンと出てくる。プロ棋士間で少し考え方が違っている点なども合わせて楽しめた。

あとがきには、こんなことが書かれている。

最近のニュースでは説明責任Accountabilityという言葉がよく使われます。私たち棋士はファンに対する「説明責任」をきちんと果たしているだろうかと自問したとき、僕は自信がもてません。特にタイトル戦などトッププロの将棋はひとめですべて理解できるようなものではなく、何度も繰り返し鑑賞することで味わいも深くなります。本書を読み終えたみなさんに「なるほど、そういうことだったのか」「将棋を見る目がかわったよ」と思っていただけるとしたら、ほんの少しだけ説明責任を果たせたということで、これに優る喜びはありません。

いや、自信を持っていいと思いますよ。少なくとも、本書のような良書が世に出ているということは評価したい。
7年も後に評価しているから書けることではあるのだが(笑)、元々の連載は現在でも形を変えてまだ『将棋世界』誌で続いている。また、本書をもっともっと判りやすくした、『将棋・序盤完全ガイド 振り飛車編』のような「観るファン」向けの棋書も出ている。そういう流れがあるのは、本書の成功があってのことだと思いたい。
棋力を問わず、初級者から有段者まで、全てのファンに勧められる良書だと思う。

作成日:2015.01.18 
全般

矢倉5三銀右急戦

矢倉5三銀右急戦 (最強将棋21 #)
著者 :村山 慈明
出版社:浅川書房
出版日:2014-12-01
価格 :¥1,650(2024/08/31 15:10時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

タイトルを見ただけで「あぁ、あの形か」と判る人はそれだけで上級者な気がする。というのも、あまりメジャーな戦法ではないと思うからだ。また、形が流れによってかなり変ってしまうので、「あぁ、あの形か」の「あの形」が判りにくい、というのもあるだろう。
要するに矢倉で後手が早めに△5三銀右と上がって、5筋の歩を交換する形のことである。急戦矢倉の一種ではあるのだが例えば右四間や米長流のようにただガンガン行くだけという戦形ではなく、そういう意味ではプロっぽい戦法なのかもしれない。一時期阿久津流と呼ばれたりもしていた(かな?)。

この戦法のエポックメイキングは、本書でも「衝撃のW新手」として語られている、羽生-渡辺の竜王戦6・7局だろう。本書では、それまでの5三銀右急戦がどのように指されて結局先手有利で終わったかをまず説明し、続いて上記の渡辺新手の変化を解説。そして、その後どう結論が動いていったかまでが書かれている。
類書はそんなに多くはなく、というかあるのだが前述の通り形が決まっていないため説明しづらく、形の紹介はあっても変化の解説は少ない、ということが多かったため、これだけまとまった解説がなされているということだけで貴重な一冊と言ってよいと思う。

ただ、個人的には少し読みづらかった。
基本的に定跡解説というよりは「実戦譜紹介」に近く、例えば目次にも「第1章 △2二角からの攻防(1989→1999)」とある通り、まずこんな感じで実戦に出ました。最初はうまく行ったが修正手順を指されて先手が有利とされました。次に郷田はこんな改良手を出したがうまくいかず、今度は阿久津がこんな新手を指し……といった感じで進んでいくのだ。
これが『最前線物語』くらい短いテンポで進めばいいのだが、全編これをやられるとちょっと辛い。手の解説だけであれば、その辺りはいらない状況だからだ。一応、あぁこんなことがあったなそういえば……と感慨に耽りながら(笑)読んではみたが、正直そうやって読むにしては手の説明が詳しすぎる。その辺りが『最前線物語』あたりとの大きな違いだと思う。

定跡はプロの指しての積み重ねでもあるし、プロがどうやって定跡を作り上げて行ったか、という点に面白さがあるということは、定跡ヲタとして十分に判る。しかし、やりたいことは判るのだが、ちょっと本書においてはカラ回りしてるかなぁ……と感じた。
そっちの方に重点を置きすぎて、ちょっと本の作り方が甘いかな、とも思ったし。例えば『四間飛車破り 居飛車穴熊編』などは、本書と同じくらい変化を詰め込んでいたと思うが、かなり整理整頓されてそれが紹介されていたと思う。本書には、目次の工夫もフローチャートも図面をまとめたページもない。ただプロの実戦譜が解説つきでどんどん紹介されているのだ。「定跡書」として本書を見た場合、その構成や見せ方は、残念ながら稚拙だと言わざるを得ない。

何度も言うが、狙いはいいし着眼点もよい。書かれている内容そのものも素晴らしい。
ただ、評価の通り、棋書として級位者にはとても勧められないし、有段者であっても盤駒なしでザッと読むというのはかなり辛いと思う。
いっそのこと帯にある「大河小説」のつもりで、変化等を一切深く考えずに、起こった出来事としてまず一読してみるといいのかもしれない。それでそういうプロ間の流れをつかんだ上で、もう一度しっかり「定跡部分」を読み直す。この方が盤駒なしなら読みやすいだろう。一度にやろうとするのはかなりハードルが高い。
そうでないなら、本書は盤駒を脇に置いて、しっかりと熟読するのがいいだろう。それだけの内容が詰まっている良書だと思う。

作成日:2015.01.17 
矢倉

わかる!勝てる!! 現代中飛車

わかる! 勝てる! ! 現代中飛車 (マイナビ将棋BOOKS)
著者 :大平 武洋
出版社:マイナビ
出版日:2014-12-13
価格 :¥1,694(2024/08/31 23:18時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

元ZONEヲタ現乃木坂46ヲタの大平が解説した中飛車本。ハロヲタの白砂からすると敵以外の何者でもないな(<違う)。
初手▲5六歩からの先手中飛車に限定して解説している。

内容はこんな感じ。

先手中飛車の理想形
5五の位を取って、5六銀で支える形。玉は美濃囲い。……という、中飛車の理想形について解説している。その形を作ることが目標であり、後手はそれを阻止するんだ、という流れで本書は進んでいく。
5筋不交換・△7三銀型
先手が5筋の位を取った形から、後手が△7三銀△6四銀と角頭を攻めて来る形。
5筋交換型
▲5五歩△同歩▲同○として捌いてしまう指し方。
後手居飛車穴熊
難敵居飛車穴熊。先手はガンガン攻める。

元々形を絞っているせいか、とても内容が濃く感じる。それでいて、随所に「ポイント」「注意」といったワンポイントがあるため、読んでいて判りやすい。
また、中飛車を指すにはどのような心構えで行くべきか、という点についても度々触れているので、中飛車党になりたい級位者は参考になると思われる。単純な定跡や変化の解説に終わっていない。

細かいことを言えば、編集で押している「指し手を示す矢印」はいらないんじゃないかなぁ、とか、いくつか「ですます体」が変に混じってたなぁ、とか、端歩の解説は序章に入れちゃった方がスッキリしたかなぁ、とかはあるが、本当にその程度。個人的にはフォントや図面の大きさ、行間に至るまで、どんぴしゃのどストライクで、とても読みやすかった。

確か著者は居飛車党だった気がするのだが(笑)、そんなことを全く感じさせない良書だと思う。これから中飛車を指してみようという人は絶対に読んでみて損はない。

作成日:2015.01.06 
中飛車

谷川浩司の本筋を見極める

谷川浩司の本筋を見極める (NHK将棋シリーズ)
著者 :谷川 浩司
出版社:NHK出版
出版日:2007-02-14
価格 :¥49(2024/09/01 01:14時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

著者が、自身が務めたNHK将棋講座をまとめたもの。
序盤、中盤、終盤それぞれについての基礎的な知識と考え方が書かれている。

内容は、

  • 序盤
    • ・開始4手による17種類の戦型分析
    • ・玉の囲い方
    • ・矢倉戦、対抗型における考え方
  • 中盤
    • ・位の重要性と対抗法
    • ・仕掛けのタイミング
    • ・攻めと受けの考え方
    • ・形勢判断の方法
  • 終盤
    • ・速度の概念
    • ・詰みについて
    • ・終盤での方針

といったところ
講座で細切れに解説する必要があったからなのだろうが、コンパクトにうまくまとまっていると思う。

個人的には、中盤での形勢判断法として紹介されている「働いている駒をカウントして、多い方が有利」という簡便法が目からウロコだった。もちろん、ものすごい正確な判断法でないことは少し考えれば判ることではあるのだが、初心者にとって大事なのは「形勢判断をする」ことそのものなのだから、その方法はできるだけ簡単な方がいいに決まっている。遊び駒は悪いものであるということも分かるし、これはいい方法だと思った。

また、これは一例だけだったのだが、駒の損得と形勢判断について、とても詳細に解説しているのもよかった。

第1図。▲2三歩成というおいしい手が見えるが、それに飛びついていいのか? という問題だ。
▲2三歩成に△同金▲同飛成は先手がおいしすぎる展開でそう進めばなんの問題もないのだが、当然後手は反発してくる。▲2三歩成に対して、△2五歩▲同飛△3四銀(第2図)という手順である。
これで飛車と「と金」の両取りで、後手は受け切ることができる……と、まぁよくある入門書だと解説はここで打ち切りだろう。もう少し踏み込んで、▲3二と△2五銀(第3図)と進んだ局面を解説するくらいか。先手は金と歩を取って、プラスと金を作った。後手は飛車を取った。この取引ならまぁ互角くらいでしょう、と。

しかし本書では、第3図から「今後、先手のと金や後手の持ち飛車がどう働くか」を示し、そこまで踏み込んで形勢判断を考えよう、としているのだ。
具体的には、

  • 先手は▲2一とと駒得することができる。
  • しかし、と金が2一へ行くのは駒の効率からすればマイナスである。
  • 後手は飛車を打てば桂香を取り返すことができるので、と金で桂香を取っても一時の駒得にしかならない可能性がある。
  • よって、先手のと金と後手の飛車が、それぞれどのように働くかを判断する必要がある。

と、こういう具合に話を進めている。
初級者どころか、中級者くらいであってもかなり高度な話だと思うのだが、しかし、こういう風に形勢を判断していくことはとても大事なことだとも思う。たった一例ではあるけれども、基礎的な解説の中にも、このような上級者になるための指針のようなものが書かれているのはすごいと思った。
その他にも、「美濃囲いで飛金と角銀、どちらを渡しても大丈夫か考えるべき」など、中級者以上の人にも参考になる内容も数多い。

タイトル通り、まさに「本筋を見極める」内容の数々。級位者はもちろん、3段くらいまでの人は、一度は手に取ってみる価値はあると思う。

作成日:2015.01.06 
大局観

居飛車穴熊の教科書

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教科書シリーズの一冊。今度は居飛車穴熊を解説している。

内容は、

  • 角筋を止める後手四間飛車に▲6六銀
  • 角筋を止める後手四間飛車に▲6六歩
  • 後手ゴキゲン中飛車に(超速からではない)居飛車穴熊

となっていて、題材としてはちょっと古い。教科書なので基礎的な話をしましょう、ということなのだろう。

3段くらいまでの居飛車党は、本書の内容をよく頭に叩き込んでおいてほしい。現在では同じ形になるということはないだろうが、7三の桂や3三の角を攻める手筋や、囲いが完成したら強気に攻めるという距離感は、居飛車穴熊党になるためには絶対に身に着けなければならない内容だ。
逆に振り飛車党なら、本書の内容を踏まえつつ、だから石田流やゴキゲン中飛車や角交換四間飛車が流行しているという事実を理解してほしい。また、本書の中の「都合のいい手順」を探してみれば、ノーマル振り飛車も意外とやれるんだということがわかるだろう(特に捌き合いになった直後くらいに、振り飛車側の甘い手が目立つ)。
なお、有段者についてはやや星を落としているが、これはもう常識の範疇なので、必要性があまりないと考えたから。まぁ元々対象棋力を外れているのだから当然といえば当然だろうか。

作成日:2015.01.05 
穴熊
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