浅川書房がついに動いた。羽生を担ぎ出しての大局観解説本である。
シリーズ第一巻は「攻めをつなぐ本」。主に中盤戦たけなわの局面から最終盤までの局面について、考え方や指し手の方向性について解説している。
ただ、実際の体裁は「解説」ではなく、次の一手の出題という形になっている。『読みの技法』系の体裁を期待していた白砂はちょっと拍子抜けだった。実際、一通り読んでみた感想としても、「これちょっと……」だった。
ちょっと、の原因は単純なことで、解説の量と解説の質が一致していない。一言で言うと「解説が少なくてわかりづらい」。非常に高度な解説をしているので、次の一手の回答としての解説量だと少なすぎるのだ。
また、一局を数問に分けて出題している。そのため、その局の最後の方の問題では「読む手数」が少なくてすむが、最初の方では成算が持てる局面に持っていくまでの読む手数はかなり長くなる(ややこしい表現で申し訳ない)。まえがきには「7手詰めが読める程度の棋力があれば……」とあるが、上記の理由により、それはちょっと疑問だと思う。
まぁごちゃごちゃと書いたが、要は「せっかく高度なことを書いているのだから、それに見合う編集形式である講義形式にしてほしかった。次の一手形式ではその効果が半減する」ということである。
……ところが。
騙されたと思って、もう一度読み返してみて欲しい。
できれば一読した後すぐがいい。「答えを知っている」状態でもう一度読むのだ。
するとあら不思議(笑)。次の一手形式だった体裁が、図面を豊富に使った解説本へと一変しているではないか。
要するに、「次の一手として問題を考える」→「答えを見る」→「解説を読む」というステップが、非常に「疲れる」ものだったのだ。答えを考えるという思考と、解説を読んで理解し吸収するという思考とは違うということなのだろう。再読した場合は、純粋に解説だけに集中して読めるために、思考の流れというかパターンが一つで済むために疲れず、非常に判りやすく読める。
実際のところ、これは単純に白砂の棋力では理解しづらいほど高度なことをやっているだけかもしれないのだが(笑)、とりあえず白砂の場合はそうだった。そういう読み方をすると、図面一つ一つに解説が入り、手の流れを説明して最後に理論を総括するという実に丁寧な解説本として読める。
この読み方が正しい、と言うつもりはないが、「一読してもよく判らん」と思った方はぜひとも試してみて欲しい。きっと効果はある。本書で説いているものを吸収できないのはもったいない。
もちろん、それでも難しいと感じることもあると思う。しかしそれは仕方がない。それだけかなり難しいことを説明しようとしている本なのだ。本書は。