60分でわかる!はじめてでも勝てる将棋入門

作成日:2011.08.28
はじめてでも勝てる将棋入門: 60分でわかる!
著者 :神吉 宏充
出版社:PHP研究所
出版日:2011-02-01
価格 :¥1(2024/08/31 22:17時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

棋界のエンターテイナーカンキが贈る将棋入門書。60分でわかる! というのはさすがに誇張なのだが、実際読んでみるとかなりわかりやすい。

まず、「どの駒が取れるか」「どこにどう動けば(打てば)たくさんの駒当たりになるか」についての解説を非常に丁寧にやっていること。これは、駒の利きをしっかり教えると同時に、実戦に必要な「相手の駒を取る」「駒を取られないように逃げる」ための技術を養うのに役立つ。将棋はの目標は相手を詰ますことなのだが、それ以前に将棋が楽しく指せるためには駒をボロボロ取られてしまうようではダメで、そこをまず押さえるというのは理に適っている。
また、その教え方も極端で、例えば、次の一手に下図のような問題を出す。これでわからない子供はまずいないだろう。笑いながらきちんと技術を覚えていくことができる。

 ついでに言うと、これは二歩の反則の説明の図である(笑)。


また、実戦の説明の前に、自分の駒だけを動かして矢倉・美濃・穴熊を作らせてみる、という試みもいい。
定跡手順などという以前に、とにかくこういう形を作りたいんだよ、その形はこういう手順だと作れるね、だから定跡はこういう手順で進んでいくんだよ、というのが体感できる。

さらに驚いたのが、最後の実戦編。なんと▲7六歩△3四歩▲7七桂の鬼殺しを使って解説しているのだ。
ただ、読んでみて納得したのだが、入門書で実戦の手順を解説をするというのは、その手順を覚えてもらうというよりは、符号になじんでもらったり、攻めが決まる快感を味わってもらったりという要素が強い。そう考えると、奇襲戦法を使って解説するというのは逆に適切だとも言える。もっとも、その味を覚えて白砂みたいな棋風になってしまわないかという危惧はあるのだが……(笑)。

ちなみに、この鬼殺し、一般的な奇襲成功例だけではなく、△6四歩対策と△6二金対策も載っている。
△6四歩には▲6八飛~▲6六歩として▲6五歩△同歩▲同桂と捌いていく、△6二金には▲2六歩▲2五歩▲2六飛▲7六飛として石田流に組む(!)、と解説している。なかなか面白い対策で、特に△6二金対策などは「奇襲が失敗しても玉を囲ってじっくり指す」という本格的なもので、将棋の本筋でもある(いや、鬼殺しが本格的だと言うわけじゃなくてね(笑))。最後の最後にチョロっと触れられているだけなのだが、単純な奇襲だけではないというエクスキューズが入っているのは評価したい。

どうなんだろう……という点について少し書いておくと、まず、正直「進級制」というシステムはどうでもいいと思った。これで少しずつ階級が上がっていくから「わーい楽しい」とはならないと思う。おそらく実際の将棋教室でやれば子供を飽きさせずに惹きつけることは可能だろう。「よーしここまでできたら25級ね」というのが説明の一区切りにもなって気分的に一段落できるし。ただ、棋書の場合は自分のペースで本を読み進んでいくので、ページをめくるという作業がすでに一区切りにもなっているから、その効果はなくても十分子供は付いてくると思う。
それと、本当に細かいことなのだが、棋譜の書き方で、先手の場合は▲7六歩と黒なのだが、後手の場合は3四歩と灰色になっていて、特にピンクがバックのページではわかりづらかった。これは普通に△3四歩と白にしてよかったんじゃないだろうか。

と、細かいことを言ったが、入門書としてはかなりの良書だと思う。
本書だけで「将棋が強くなる」ということは絶対にないと断言してしまうが、本書を読めば(60分以上は絶対にかかると思うが(笑))絶対に「将棋が一局指せるようになる」とは断言できるだろう。