総合

羽生善治の終盤術2 基本だけでここまで出来る

羽生善治の終盤術 (2) (最強将棋21 #)
著者 :羽生 善治
出版社:浅川書房
出版日:2006-04-01
価格 :¥1,430(2024/08/31 23:32時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

前作に続き、寄せについて書いた本。お得意の「本をひっくり返す」次の一手方式で書かれている。

サブタイトルは「基本だけでここまで出来る」となっていて、取り上げられた形を見ても、なるほど基本的な手筋だけで構成されている。入門書で手筋を覚えても、実際に使いこなせなければ意味がないという好例だろう。
同時に、羽生の「大山先生は手を読んでない。ホントに読んでないんですよ」という発言も思い出した。大局観と基本的な手筋が頭にあれば、手を読むことなどしなくてもツボに手が行くということだろう。事実、本書に載っている、堅そうな陣形、手がかりのなさそうな玉形が、あっという間に寄ってしまう。「公式は暗記するのが重要なのではなく、使いこなすことが重要」だということがよく判る。

次の一手形式も効果的に機能していると思う。
羽生が講座で壇上に立ち、大盤を動かしながら「これはこうやっていきます。……次の形、これはこう攻めれば潰れてますね」と解説しているようなスピード感が感じられる。次の一手形式の「ブツ切り感」がいい方に作用しているのだろう。

ただ、その点から苦情を呈すると、個々の問題に関連がないのが逆に気になった。
前述のたとえを使うなら、「これはこうやっていきます。……次の形、これはこう攻めれば潰れてますね」と言う時、通常は「先程と同じく……」とか、「この筋があるので前回の手順は使えず、代わりに……」とか、前後にはなんらかの関係性があるものだろう。そうやって体系的に学ぶことによって、よりいっそう理解が深まる。本書には、あまりそれが感じられなかった(ないわけではない。念のため)。
そのため、本当に単に次の一手をいっぱい解くだけ……という雰囲気もなってしまいがちだ。
題材の難易度など、非常にうまくできていると思うので、もったいないと感じた。

作成日:2006.07.08 
次の一手 終盤・寄せ

詰めと必至ハンドブック

詰めと必至ハンドブック
著者 :内藤 國雄
出版社:マイナビ出版(日本将棋連盟)
出版日:2006-03-01
価格 :¥175(2024/08/31 18:54時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

初級者から中級者向けくらいを対象にした、易しい必死集。
簡単な1手必死120問と、少し難しい1手必死30問とからなる。

終盤を鍛えるなら詰将棋より必死の方が実践的で、というか必死はその中に詰将棋を内包しているため、読みの長さが少し多く必要になる。そのため、たった1手の必死とはいえ、詰将棋に直すと5手とか7手分を読むことになる。読みの訓練になるのも納得というものだ。
本書では、前段として詰みの形について解説し、どの持ち駒があれば詰むかという練習問題でウォーミングアップする。それから1手必死に入っていくので、徐々に読み筋が深まっていくのだがあまり気にならない。

問題数、問題の質ともに、初段以下の人には最適だと思う。

こういう良質な必死本を読むと、必死と詰将棋を合わせた本というのも欲しくなってくる。
問題が提示されるが、詰むかどうかが判らない。詰ますか必死をかけるかという選択も同時に迫られる。応用問題として、詰みも必死もかからないのでいったん受けに回るとか、2手スキをかけて勝ちとか、そういう問題がところどころに入っているとなおいい。
浅川書房あたりで一つよろしく(笑)。

作成日:2006.07.08 
終盤・寄せ

清水市代の将棋トレーニング

清水市代の将棋トレーニング (NHK将棋シリーズ)
著者 :清水 市代
出版社:NHK出版
出版日:2006-02-01
価格 :¥109(2024/08/31 18:31時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

NHK将棋講座の内容をまとめた本。本には「加筆修正」と書いてあった気がするが、NHKの録画時間は10:23~12:00までとしている(こうするとちょうど指し初めから録画される)ので、真偽のほどは判らない。

一読して、かなりいいんじゃないかと思った。
中盤の手筋や寄せの局面を抽出して、手筋を紹介するというまぁありふれた本ではあるのだが、それなりにきっちりとまとまっている。もう少し強くなるためのステップアップコラムのようなものも用意されていて、初級者が中級者になるにはちょうどいい難易度になっていると思う。

確か昔の『近代将棋』だったと思うのだが、「上達法はなにか?」という記事があり、そこで「▲7六歩より頭金」と結論されていた。小難しい序盤よりは、詰める詰められるというスリリングな終盤を体験する方が上達の早道である、ということだ。そのとき、著者も同様のことを言っていたように記憶する。
本書は、そんな著者の哲学にピッタリ沿った内容になっている。入門書としては申し分ない。

作成日:2006.03.31 
手筋

阿部隆の大局観・良い手悪い手普通の手

阿部隆の大局観: 良い手悪い手普通の手
著者 :阿部 隆
出版社:(株)マイナビ出版
出版日:2005-10-01
価格 :¥488(2024/09/01 01:14時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

NHK将棋講座の内容をまとめた本。
なぜか知らないが、毎コミからの出版となっている。ひょっとすると若干内容が増えたりしているのかもしれないが、目次にも「NHK将棋講座を元に……」とあったし、何回か見た講座の内容とは合致している。よく判らないのでこの辺は考えないことにしよう。

内容は書名通り「大局観を養う本」になっている。
3択形式で出題し、その手がなぜいいか、なぜ悪いかを解説する。また、ところどころに「ポイント」という項が設けられていて、重要なポイントを解説してくれる。

著者が居飛車党のため、対抗形はすべて居飛車の立場で書かれているし、相居飛車はあるが相振り飛車はない。矢倉も3七銀戦法と脇システム(!)、横歩取りは8五飛戦法と、講師の立場に立って書かれたものであることが判る。大局観を養うという点ではすべての層の人に読んで欲しいが、振り飛車党が読んでも鬱になるだけかもしれない(笑)。
この辺りはこの手の本で問題となるところで、例えば居飛車党の大局観と振り飛車党の大局観は、微妙に、しかし根っこのところで完全にズレている。まぁだからこそ各種の戦法が存在しそれを得意にしている人がいるわけなのだが、では、居飛車党の立場に立って書かれた大局観の本が、振り飛車党の立場にどれだけ役に立つかというとこれまた微妙だ。

もっとも、本書についてはそういう懸念はない。対象棋力がやや下に設定されているため、戦法の問題ではなくまずは正しい大局観の捉え方考え方を見につけましょう、という内容になっているからだ。
対象棋力は高く見積もっても3段まで、一般には、初段くらいが対象だと思われる。それ以上の棋力の人は、本書はあまり必要がない。題材も最新形ではないし、本書で書かれていることは有段者ならすでに身につけていなければならないことだろう。 逆に、定跡書を何冊も読んでるのに勝てない、という級位者の人は、まずは立ち読みで最初だけでも読んでみて欲しい。おそらく何か得るものがあるはずだ。

中級者向けの非常にいい本だと思うのだが、一つだけ苦言を呈したい。
「ポイント」を出してくれるのはいいのだが、その「ポイント」という表示が非常に目立たない。せっかくのポイントなのだから、もう少し太字で書くとか(一応太字にはなっている)、背景をグレーにするとか、もう少し工夫をして欲しかった。
これもとりあえず店頭で確認してみて欲しい。せっかくのポイント表示が、かえってキツキツのレイアウトを際立たせてしまっている。じゃあどうすりゃいいんだよというと(文字数の問題もあって)難しい問題なのだが、本書の対象棋力くらいの人に対しては「読みやすく読ませる」工夫も必要だろう。

作成日:2006.01.08 
大局観

羽生善治の終盤術1 攻めをつなぐ本

羽生善治の終盤術(1) 攻めをつなぐ本 (最強将棋21)
著者 :羽生 善治
出版社:浅川書房
出版日:2005-12-22
価格 :¥1,430(2024/08/31 18:31時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

浅川書房がついに動いた。羽生を担ぎ出しての大局観解説本である。
シリーズ第一巻は「攻めをつなぐ本」。主に中盤戦たけなわの局面から最終盤までの局面について、考え方や指し手の方向性について解説している。

ただ、実際の体裁は「解説」ではなく、次の一手の出題という形になっている。『読みの技法』系の体裁を期待していた白砂はちょっと拍子抜けだった。実際、一通り読んでみた感想としても、「これちょっと……」だった。
ちょっと、の原因は単純なことで、解説の量と解説の質が一致していない。一言で言うと「解説が少なくてわかりづらい」。非常に高度な解説をしているので、次の一手の回答としての解説量だと少なすぎるのだ。
また、一局を数問に分けて出題している。そのため、その局の最後の方の問題では「読む手数」が少なくてすむが、最初の方では成算が持てる局面に持っていくまでの読む手数はかなり長くなる(ややこしい表現で申し訳ない)。まえがきには「7手詰めが読める程度の棋力があれば……」とあるが、上記の理由により、それはちょっと疑問だと思う。

まぁごちゃごちゃと書いたが、要は「せっかく高度なことを書いているのだから、それに見合う編集形式である講義形式にしてほしかった。次の一手形式ではその効果が半減する」ということである。

……ところが。

騙されたと思って、もう一度読み返してみて欲しい。
できれば一読した後すぐがいい。「答えを知っている」状態でもう一度読むのだ。

するとあら不思議(笑)。次の一手形式だった体裁が、図面を豊富に使った解説本へと一変しているではないか。
要するに、「次の一手として問題を考える」→「答えを見る」→「解説を読む」というステップが、非常に「疲れる」ものだったのだ。答えを考えるという思考と、解説を読んで理解し吸収するという思考とは違うということなのだろう。再読した場合は、純粋に解説だけに集中して読めるために、思考の流れというかパターンが一つで済むために疲れず、非常に判りやすく読める。
実際のところ、これは単純に白砂の棋力では理解しづらいほど高度なことをやっているだけかもしれないのだが(笑)、とりあえず白砂の場合はそうだった。そういう読み方をすると、図面一つ一つに解説が入り、手の流れを説明して最後に理論を総括するという実に丁寧な解説本として読める。

この読み方が正しい、と言うつもりはないが、「一読してもよく判らん」と思った方はぜひとも試してみて欲しい。きっと効果はある。本書で説いているものを吸収できないのはもったいない。
もちろん、それでも難しいと感じることもあると思う。しかしそれは仕方がない。それだけかなり難しいことを説明しようとしている本なのだ。本書は。

作成日:2006.01.08 
次の一手 手筋 終盤・寄せ 大局観
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