定跡

コーヤン流三間飛車 実戦編

コーヤン流三間飛車 実戦編 (新プロの将棋シリーズ 2)
著者 :中田 功
出版社:(株)マイナビ出版
出版日:2004-09-01
価格 :¥1,929(2024/09/01 06:44時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

急戦編、持久戦編に続いて、今度は実戦編と銘打ったコーヤン三間飛車シリーズ。東大道場シリーズといい、ここのところやけに三間飛車が注目を浴びている。
おそらくその一因の一つとなっているのがこのコーヤンこと中田功の存在で、プロの間で非常に評価が高い三間飛車党である。「実戦編」ということで、これはマニアが待ち望んでいた実戦集かと思いきや……。

実戦譜は後ろの方に固まっていて、棋譜もついている。
しかし、この本は実戦譜集ではない普通の定跡書である。

本の半分は、今まで出版した急戦編、持久戦編のフォローになっている。時間が経って結論が変わったもの、書ききれなかった変化などをここで改めて詳解している。
また、「実戦」の部分も、解説されているのは組み合った後からで、中盤から寄せまでの解説となっている。序盤の駒組みについてはほとんど触れられていない。

これで「実戦編」と出版してしまう出版社にまず驚いたが、内容は非常に濃く、面白く読めた。ギリギリの部分での優劣を解説しているため、初段くらいでは少し難しいのではないかと思う。旧来の定跡を知っている人が、ここで新定跡を手に入れる。そんな感じの本だ。

実戦解説を部分的にしたのも、好意的に見れば「見たいところだけを集中的にたくさん解説する」という表れなので、これはこれで評価できると思う。
一冊の本として出版をする場合、序盤はどうしても似たような手順になりがちなので、解説部分に書く事がなくなって(笑)いきおい棋士の人となりを紹介したり対局時の精神状態を解説したりと「ムダ」なものになりがちだ(笑)。それをバッサリと省いて解説したいところだけ解説をしたと考えれば、合理的ではある。白砂はどちらかと言うと「よみもの」と捉えているので(だから観戦記や自戦記は好きだけど棋譜集は嫌い)、そのムダな部分をどう捌くかというところが見たかったりするあまのじゃくではあるのだが(爆)。

作成日:2004.10.02 
三間飛車

三間飛車戦法 軽快に豪快に一気に寄せきる

三間飛車戦法: 軽快に豪快に一気に寄せきる (将棋必勝シリーズ)
著者 :鈴木 大介
出版社:創元社
出版日:2004-07-01
価格 :¥200(2024/09/01 09:47時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

四間飛車やゴキゲン中飛車でおなじみの鈴木大介が、今度は三間飛車の解説を書いた。
創元社+鈴木大介というラインナップ、予想通りの(爆)仕上がりになっている。

内容としては、三間飛車vs急戦、左美濃、居飛車穴熊の三種。
相変わらず都合のいい解説は健在で(笑)、例えば左美濃や居飛車穴熊では無防備に△7四歩と突いて飛車のコビンを攻められるとか、急戦もやや危なっかしい手順で「これにてよし」で終わったりしている。
しかし、急所は判りやすく解説されているので、取っ掛かりの一冊としては悪くないと思う。この辺り、いつものツクリという気がしないでもない。

少し気になったのは、本書は本当に鈴木大介が書いたのか? ということ。どうも今までとは文章の調子が違っているように思えるのだ。
今までの「鈴木節」は、文体というよりは手順が豪快というか粗雑というか、まぁそこはそれいいじゃん振り飛車が勝てば、みたいな感があったのだが、本書の場合、手順というよりは文体でその豪快感を出そうという雰囲気がむんむんしている……気がする(笑)。いや、それだけ形容詞を使えるようになったと言えばそうなのかもしれないが、それよりはむしろゴーストが鈴木大介感を出そうとしてすべりまくった結果に見えるのだ。まぁ、いまさらゴーストを問題にするのもなんかどうでもいい気がするが、少し気になったので。

作成日:2004.09.14 
三間飛車

東大将棋ブックス三間飛車道場2 居飛穴vs4三銀

三間飛車道場 第2巻 (東大将棋ブックス)
著者 :所司 和晴
出版社:(株)マイナビ出版
出版日:2004-08-01
価格 :¥1,430(2024/09/01 06:56時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

三間飛車道場の第2弾は4三銀型。形的には石田流の将棋になる。4三銀はやはり石田流と相性がいい。

内容としては、石田流に組んだあと△5一角から△7三角とする形と、△4ニ角から△6四角とする形。居飛車穴熊側が▲5六歩と突いた手を咎めるために△5四銀と出る形。それと、向かい飛車に変わって飛車先を逆襲していく指し方の4つである。

△7三角なんて言うから、てっきり楠本流でも紹介するのかと思ったら、普通に銀冠に組むだけだった。どちらかと言うと大山流という感じだ。△4ニ角から△6四角とする形にも新鮮味はあまりない。△5四銀からの玉頭銀もよくある形ではあるし、向かい飛車については『島ノート』で十分にも思える。
……と、正直あまり新鮮さは感じなかったのだが、既存の定跡を網羅的に収録する、というのがこのシリーズの目的なのだろうから、これはこれで仕方がない気がする。特に三間飛車はあまり定跡が整備されていない印象があるので、まずは舗装工事から、ということなのだろう。

編集的にも、一応、初めての試みがいろいろなされている。「黄色本」で懐かしい定跡百科シリーズで採用した形勢判断記号だとか、図にいろいろ注釈を入れるだとか。
読みこむのではなく辞書として使う場合、これらは非常に役に立つだろう。本文を読まなくてもその形のよしあしがパッと判るから。
また、最終ページには、まとめのような格好で各章の基本図が載っている。しかし各章ということは全部で4つなわけで、たった4つの図面を載せてどれほど役に立つのか……? と思ってしまう。むしろ各章ごとに1ページ4図面くらいにしたら、もう少し目次的な使い方ができるかもしれない。

とりあえずしばらくは三間飛車道場しか出さないそうなので、少しずつでもいいから改良して欲しい。
そう言えば、各章に入る前のオープニングの解説部分が、図面3段組ではなく2段組になっていた。これ、そんなにたいした事がないように見えるが、見栄えが全然違う。これは個人的になかなかヒットだった。

作成日:2004.09.02 
穴熊

なんでも矢倉

なんでも矢倉 (将棋必勝シリーズ)
著者 :森下 卓
出版社:創元社
出版日:2004-08-01
価格 :¥1,430(2024/08/31 15:25時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

中飛車、棒銀に続くなんでもシリーズの第3弾は矢倉。いくらなんでも「なんでも矢倉」にはできないだろー、と思っていたら、うまくというかずるくというか(笑)、確かに「なんでも矢倉」になっている。

内容は、対振り飛車の矢倉棒銀! と玉頭位取り、そして相居飛車での後手無理矢理矢倉の3つ。

振り飛車に矢倉棒銀なんてありかよ! という気もするが、本書に書いてある通り、加藤一二三が指していた。昔、加藤自身が書いた著書を読んだ記憶もある。
戦法としては鳥刺しに近い感覚である。一応急戦と持久戦の両方を解説してもいるし、級位者が得意戦法にするのにはいいかもしれない。

玉頭位取りは、もう玉頭位取り、としか言いようがない。そりゃ確かに銀立ち矢倉だけどさぁ……。
それでも、意外と高度なことも書いてあるので、少しは役に立つかもしれない。もっとも、振り飛車が飛車を振り戻して玉頭戦になる対抗策についてはほとんど触れられていないので、初段くらいではもう役に立たないと思う。

最後の無理矢理矢倉は、矢倉に組むというよりはそれ以外の形について多くを割いているようにも思える。後手番で飛車先不突きの腰掛け銀の形なども書いてあるので、少しは参考になるだろう。

当たり前の話だが全体的に初級者向けなので、細かいことは言わず、なんとなく戦法の雰囲気をつかむといったくらいの心構えで読むのがいいと思う。

しかし、次はなんだろうか……?

作成日:2004.09.02 
振り飛車全般 矢倉

四間飛車の急所2 急戦大全 上

四間飛車の急所 2 (最強将棋21 #)
著者 :藤井 猛
出版社:浅川書房
出版日:2004-08-01
価格 :¥1,650(2024/09/01 07:47時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

『四間飛車の急所 1』に続く、藤井猛の四間飛車解説本。
今回は5七銀左戦法に絞って解説している。もっと具体的に言うと、5七銀左の形から派生する急戦──山田定跡や鷺宮定跡、端角、ナナメ棒銀──についての解説である。
▲5七銀左の局面を基本図として、そこから振り飛車が△5四歩△6四歩△1二香△4三銀と指した場合のそれぞれについて、非常に深く解説している。
これ以外の急戦、棒銀や4五歩早仕掛けについては3巻で、振り飛車が4一金のまま待機する形については4巻でそれぞれ解説する。急戦だけで全3巻という、かなりボリュームのある内容となっている。

読んでみて驚いたのは、本当に手順が「システム化」されていること。本書を読むと、居飛車の仕掛けのパターンのようなものがよく判ってくる。
▲5七銀左の急戦の場合、端角のような特殊な形を除いて、大体が「▲3五歩△同歩▲4六銀」「▲3五歩△同歩▲同飛」の仕掛けとなる。あとは、これにバリエージョンが加わるだけだ。▲6八金直と入れてみたり、先に▲3八飛と回ってみたり、▲6六歩と突いておいて角を捌かせないようにしたり。同様に、振り飛車側の形も限られてくる。
本書は、この「パターンの組み合わせ」が実に判りやすく書かれている。居飛車はABCというパターンがあり、振り飛車はXYZというパターンがある。Aの仕掛けをすると最終地点はこの形で、Xだと振り飛車が得だがYだと居飛車が得になる。よって居飛車はXではこの仕掛けはせず、Bの仕掛けを選択し……といった具合である。もちろんこういった書き方ではないのだが、読み進めて行くと、このパターンの組み合わせが嫌でも頭に入ってくるようになる。

システム化されている、というだけでなく、一つ一つの手順が実に「正直に」書かれている。よくありがちな定跡書のような、どちらかにひいきするということは一切ない。妥協をすることなく、居飛車が有利な手順ははっきり居飛車有利だと言い切り、しっかりと対抗策を考えてある。そのため「形勢不明」「互角」という結果も多いが、それは正直さの裏返しということで納得しよう(笑)。
また、実戦的な手順も数多い。
例えば下図。

▲3五歩△同歩▲4六銀と仕掛けたところで、大体こういう局面で後手は△3六歩とするものだ。しかし、この形に限ってはという条件付き(厳密には違う。正確な表現は本書で確認して欲しい)で、△4五歩と突く手を紹介している。
△4五歩には▲3三角成△同銀▲3五銀と出る。居飛車がやけに調子がいいようだが、△3四歩と更に屈服の歩を打ち、▲2四歩△同歩▲同銀△同銀▲同飛に△3三角▲2一飛成△2二飛▲同龍△同角とおなじみの捌きをしてみると、意外や意外難しい、というのだ。
詳しい手順、形勢判断の根拠などは実際に本書を手にとって確かめて欲しい。ちなみに、この筋を応用した指し手も別のページで紹介されている。本書がシステム化を目指していること、また、実戦的な指し手が豊富に載っていることの証拠でもある一事だ。

本の体裁の部分にも、様々な工夫が凝らされている。
一番目を引くのは「藤井ファイル」と題された、各章のアタマに設けられたページで、このページで大体の流れは全てつかむことができる。極論を言ってしまえば、有段者の場合、立ち読みでそこだけさらえば本書の9割は読んだことになる。その気になれば20分もあれば十分に理解できるだろう。
というように立ち読みの人も配慮したレイアウトになっており……じゃなくって(笑)、まずこの「藤井ファイル」を読めば済むようになっている。詳解ページもきちんと振ってあるので、ここで形を調べて、具体的に解説にすぐ飛べる、というような、辞書的な使用がしやすくなっているのだ。これはなかなか画期的なことだと思う。
また、各章の冒頭には樹形図もあるので、振り飛車がどう待ち、居飛車がどう仕掛けるつもりかという大体の流れもつかみやすくなっている。

著者渾身の一冊であり、シリーズだと思う。
そしてまた、その意をしっかりと汲み取った素晴らしい編集だと思う。
居飛車党も振り飛車党も、ぜひ一度読んでみて欲しい。
単なる定跡書、というだけでなく、真理を追究する学問的な面白さまでもが味わえる一冊だ。

作成日:2004.08.13 
四間飛車
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