定跡

将棋の序盤でやってはいけない手

将棋の序盤でやってはいけない手
著者 :高橋 道雄
出版社:創元社
出版日:2018-03-13
価格 :¥1,430(2024/08/31 21:31時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

定跡の中から「悪手」「疑問手」を抜き出して、逆に「こう指しちゃダメですよ」と解説することで定跡の正しい手順を理解しよう、という本。
戦形もいろいろあり、総合定跡解説っぽくはある。

……という説明だけを聞けば面白そうだ、と思うかもしれませんけども。
ちょっとなぁ……。

まず、少し問題の難易度設定にバラつきがありすぎること。
相矢倉の解説をするのに▲7六歩△3四歩▲6八銀はダメですよ、というところから始めるのに、相矢倉でこう指すと陣形合戦で不利になりそのまま負けるよ、というのを同時に解説するのはちょっと無理があると思う。有段者から見ればどちらも悪手・疑問手だとは思うが、悪さのレベルが違う。

いっそのこと、戦形で分けるのではなく、難易度で分けるくらいの方がいいような気がする。例えばこんな感じで。
第一章は▲7六歩△3四歩▲6八銀レベルでいいと思う。とにかく駒組の途中で駒損や角の両成りなどをされるという「目に見える悪手」。
第二章は矢倉で▲7八金と備えずに▲4八銀としてしまうとか、角換わりで△4一玉と寄ると▲4五銀△同銀▲6三角とされるとか(形は察してくれ(笑))、5手から9手くらいまで読むと形勢を決定的に損ねることがわかる「読むとわかる悪手」。
第三章は、第二章からもう少し進んで、右四間に対して矢倉を組むと攻めつぶされるとか、かなり深く読むと形勢を決定的に損ねることがわかる「読むとわかる悪手」。
そして最後に、駒組が不自由になるなどの「不利になる疑問手」。例えばアマ有段者と級位者が戦ったらひっくり返されるくらいの、だけど悪い手とされているからその展開には飛び込まないようにしようね、という形など。

これくらい分けて話をしてくれれば理解もしやすいし、逆に「知っといた方がいいけどまだ早いから完全に覚えなくてもいいよ」という感じで、棋力によって使い分けることもできる。
正直、タイトルを見たときはこういうものを想像していたので、ハードルが高かった分なんか評価が低くなってしまった。悪い試みじゃないとは思うんだけど……。

作成日:2018.06.02 
全般

振り飛車の核心 ”さばき”の基本手筋

振り飛車の核心 “さばき"の基本手筋 (マイナビ将棋BOOKS)
著者 :藤倉 勇樹
出版社:マイナビ出版
出版日:2018-04-23
価格 :¥1,694(2024/08/31 21:16時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

振り飛車側から見た対抗形の定跡について、次の一手で勉強する本。三択・ヒントつきというどちらかというと級位者向けに作られている。

問題は四間飛車がほとんどで、一応三間飛車・中飛車・向かい飛車もある。なぜか4→3戦法も入っているのがいいのか悪いのか。あと、中盤の次の一手というのも少し入ってたかな。
特に四間飛車編では居飛車側の戦法がほとんど急戦で、▲8五歩△同銀▲8八飛とか、▲6四歩△7七角成▲6五銀△7五飛▲7七桂とか、居飛車穴熊黎明期を知っている白砂くらいの世代には懐かしい手順が紹介されたりしている。懐かしいのは結構だがしかしどれくらい需要があるのかが少し疑問で、同時にそんな風に将棋が変わってしまったことにちょっと残念に思ったりもしてしまった。

定跡の基本的な部分の、振り飛車がカッコイイ部分を抜き出して紹介してくれているので、定跡の勉強というよりは振り飛車の「布教用」かなぁ……などとも考えてしまった。とにかくこういう手順・形を紹介して、捌きのカッコよさを吸収してもらおうというのであれば、一定の効果はあると思う。鈴木大介定跡というか(笑)。ただ、やっぱり振り飛車の醍醐味ってこれなんだよなぁ。
初段くらいまでにはこの本の変化はすべて知っているくらいでないといけないと思うので(もしくは「こんな将棋にはならないから必要ない」か……orz)、それ以上の人は勉強用としては本書は必要ないと思う。ただ、「こんな将棋にはふだんはならないけど」というエクスキューズをつけないといけないのは少し悲しいけど、こういうのが振り飛車なんだよ、面白いでしょ! と級位者の人たちに知ってほしくはなる。

作成日:2018.06.02 
振り飛車全般 次の一手

佐藤康光の矢倉

佐藤康光の矢倉 (佐藤康光の将棋シリーズ)
著者 :佐藤 康光
出版社:毎日コミュニケーションズ
出版日:2011-03-24
価格 :¥1,650(2024/08/31 15:10時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

四間飛車藤井システムを開発した藤井が、矢倉で新機軸を見せた「矢倉藤井システム」について解説した本。なんで佐藤が解説するのかはよく判らないのだが、内容はいいからまぁよしとしよう(笑)。
そしてまたなんでか判らないのだが、森下システムとセットになっている。単純に考えると双方ともに1冊の本にするには苦しく、合わせて出版した……ということなのだろうか、内容はいいからまぁよしとしよう(笑)。

矢倉藤井システムについては、基本的な形の解説から後手の対策までをいろいろ解説している。
森下システムは、ざっくり森下システムが消えた理由を紹介した後、復活の一因となった深浦流の▲5三歩から▲5四香、それを避けて後手が△4三金右と変化する指し方を解説している。
講座編で飛ばした部分を実戦編で紹介する、という、一風変わったシステムの本で、定跡本として読むと少し「とっ散らかった」印象を受ける。白砂は体系的に読んだ方が理解がしやすいクチなので、よりそう感じたのかもしれないが。とりあえず、講座編で「先手ピンチ。対策は実戦編で」はやめようよ(笑)。

解説そのものはとても丁寧で、重要な部分では2、3手で1ページくらいのペースで進むため、初級者でも判りやすいと思う。実戦編の方でもそれくらいのペースで解説してくれるのは少し驚いた。ただ、それならやっぱり体系立ててきちんと解説してくれた方が……と思ってしまった。また、ほんの少しの工夫なのだが、それぞれの解説の概略部分では行間を少し広げて読みやすくしてくれている。これはいいアイディアだと思った。

棋書としてはきちんとまとまっていて、ちゃんと藤井システム・森下システムが理解できる良書だと思う。

ただ、ちょっと卑怯な話なのだが、個人的なことを言うと、実は以前、藤井自身による解説会に参加したことがあるのだ。その時は(当たり前だが)本人から口頭で講義を受けたのだけれども、それがまたとても判りやすかったのである。その講座の内容と比べてみると、やはり「藤井流とはどういうものなのか」という大事な部分についての解説が少ないと感じた。一応10-11ページで解説はしているし、19ページでも補足はしてあるのだが、言葉だけではなく手順や図など、もう少し工夫があればなぁ……と思う。
もちろん、これはあくまでも個人的なバックボーンあっての感想であるし、解説が判りやすいことは確かである。初級者から有段者まで、しっかりと役に立つ棋書であることは間違いない。

作成日:2015.02.14 
矢倉

菅井ノート 後手編

菅井ノート 後手編 (マイナビ将棋BOOKS)
著者 :菅井 竜也
出版社:マイナビ
出版日:2012-09-27
価格 :¥759(2024/09/01 03:54時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

NHKの冒頭インタビューを観て以来、というかその際に聞き手の矢内が「だいじょうぶ、すぐ終わるから」と励ましたという逸話を聞いて以来、夫婦でファンをやっている菅井(<どういう説明だ(笑))の著書。振り飛車党でもあり、超速対策として自らの名を冠された「菅井流」を生み出した開発者でもある。

内容はほぼvs超速。

菅井流
▲3七銀に△4四歩と突く形。続けて▲4六銀なら△4五歩と引っ張り込んで攻めよう、という大胆な構想だ。▲7八銀型の対策にも触れている
△3二金型
いきなり後手が5筋を交換する形に対して、先手が▲5五歩とフタをする手と、2枚の銀で中央を制する形。また、少しスピードは落ちるが、▲5八金右まで囲う形や、端歩を突き合う形にも触れている。
△3二銀型
△3二金型と同様に5筋の歩を交換し、先手が2枚の銀で中央を制する形。後手の形の違いが問題となる。
銀対抗型
▲4六銀に△4四銀と受け止める指し方。穴熊の戦いになる。
一直線穴熊
前章をもっと先鋭的にして、超速を捨ててでもとにかく穴熊に囲う、という指し方。▲8八銀と上がらないことで、角頭を攻められた際に▲8八角と引くことができる、というう工夫により注目された。
その他
343戦法の改良形、少し古い5筋からの攻め筋など。

現在(2015年)ではあまり見られなくなったゴキゲン中飛車だが、この当時(2012年頃)は、ゴキゲン中飛車に対して超速という特効薬ができたと、振り飛車党も居飛車党もこぞってこの戦形を指していた気がする。

『島ノート』ほどではないが、上記で説明した通り、それぞれの形について詳細に解説されている。図面の挟み方や文字フォント、行間に至るまで、とても丁寧に仕上げられた本である。
繰り返しになるが現在ではやや下火になっている感がある戦法なので、今これを読んでゴキゲン中飛車党になる! という人はあまりいないだろうが、飛角が乱舞する振り飛車らしい振り飛車なので、指してみると楽しめると思う。振り飛車の勘所をこの戦法でつかんで、他の戦法、例えば角交換四間飛車などに移行すると、その感覚の同じところと違うところが判ってより一層指し手に深みが出るだろう。
そういう意味では、内容は有段者向けの本なのだが、むしろ初段前後くらいの居飛車党にお勧めしたい。居飛車らしい緻密さだけではなく、振り飛車流の「いい意味でのおおざっぱさ」がきっと掴めると思う。

作成日:2015.02.12 
振り飛車全般

現代横歩取りのすべて

現代横歩取りのすべて (マイナビ将棋BOOKS)
著者 :村田 顕弘
出版社:マイナビ
出版日:2014-10-23
価格 :¥1,749(2024/08/31 15:10時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

升田幸三賞を受賞した「横歩取り5二玉型」をメインに解説した本。メインに、と書いたのは、それ以外にも、横歩取りの基本となる話をいろいろと解説しているからである。

内容は

横歩取りを避ける変化
▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩となったら、横歩取り以外は損だという解説。
5二玉型以外の横歩取りについて
△2三歩型や△4五角型などについて。
5二玉型
本書のメイン。△5二玉とした基本図から、▲5八玉、▲6八玉、▲4八銀の3つの変化を解説。
5二玉型最新形
リアルタイムで研究が進んでいて、まだ結論が出ていない形を中心に紹介。
青野流
先手が▲3六飛と引かず3四飛で頑張る形。

かなり色々な内容で、特に最初の2つは、相横歩や△4四角型などを含め、本気で解説したらこれだけでまとめて1冊できそうなくらいのものである。まぁ、昔は『横歩取りは生きている』とかあったしなぁ(遠い目)。
メインの5二玉型は、△2三銀から△2四飛とぶつける筋が中心になる。8五飛戦法の頃の5二玉型は(ものすごく乱暴に言ってしまうと)4一玉型の囲いの修正だったわけだが、8四飛型での5二玉型はそもそもの攻め筋からして違っていて、かなりとんがっている感じがする。
その他、YSS新手や菅井流の歩を打ってしまう形など、最新の形にも触れている。こちらは「紹介」程度の内容ではあるが、どちらが有利と断言できないのであれば紹介だけしとくね、という、ある意味潔い態度ではある。

特にメインの5二玉型については、それぞれの微妙な形の違いを判りやすく解説していてとてもよかった。
また、変化のチョイスというか、実戦で使ってみたくなるような面白い手順を数多く紹介していて、すごくこの戦法の勘所が判っているなあと感じた(上から目線に聞こえたらすいません。そういう意図はありません)。

とりあえず本書を読めば、初段くらいまでの人でも横歩取りの乱戦を楽しく戦えると思う(殴り合いなので勝ち負けは別ね)。有段者の人でも、最近の横歩取りの情勢には一通り触れられているので、一読しておくと自分の頭の中がすスッキリすると思う。もっとも、横歩取り党の有段者はこの辺りはキッチリ整理済みなのかもしれないが。門外漢の白砂だから特にそう感じてしまうのかな(笑)。
最新の戦形の解説をタイムリーに出した良書だと思う。だったらお前もタイムリーに紹介しろというツッコミはすいませんナシの方向で。

作成日:2015.01.22 
横歩取り
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