四間飛車

四間飛車の急所 4 最強の4一金型

四間飛車の急所 (4) 最強の4一金型 (最強将棋21)
著者 :藤井 猛
出版社:浅川書房
出版日:2005-03-05
価格 :¥1,540(2024/09/02 11:59時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

『四間飛車の急所』シリーズ第4弾。
今回は後手四間飛車側が△5二金左を保留した形を解説する。

形自体はそれこそ大山時代からあった指し方で、部分的な裏技としてはいくつかの棋書でも散見できる。有名なところでは、対右四間飛車で▲1一角成△3一金として後手有利、というものがある……といって判る人が意外と少なかったりして……。
白砂の個人的なことを言うと、学生時代に高井さんがこの形を得意にしていて、急戦を袖飛車で破って勝星を荒稼ぎしていた。居飛車穴熊が出てしばらくの頃で、その頃は「鷺宮定跡」誕生などもあり、まだ急戦も多く指されていたものだった(<遠い目)。

まぁ、とにかく4一金型。
基本的なコンセプトは、△5二金左としないことにより、盤面右側に金を応援に出しやすくし、急戦を正面から受け止めようというものだ。また、△5四歩△6四歩といった歩を突かないことにより、△6四角とか△5四銀といった通常の定跡では生じない筋が発生することもある。もちろんこれはメリットばかりではなくデメリットもあってなんとも言えないところだが。
矢倉において飛車先不突きが誕生したように、金上がりを保留することによって、居飛車の態度に合わせてこちらの体勢を変化させることができる。これが本書の4一金型の狙いである。

そういう事情であるので、できれば、というか必ず2/3巻は読んでおかなければならない。「従来の形と比べて」という比較が多々発生するからだ。形は全然違うが、『高田流新戦略3手目7八金』と同じように、少しでも得をしようという志向レベルの高い形である。

内容は、そういう事情もあってか意外と薄い。
いや、こういう言い方は語弊があるか。比較対照という作業が多いため、新しく変化を覚えるという感じにはならないので、そんなに苦にならずに読めるのだ。少なくとも、既刊の2冊を読みこなせるレベルであれば本書はラクに読めるだろう。
もっともここが評価の難しいところで、ということは前2冊をきちんと理解せず本書を読んだ場合、どの程度それが「役に立つ」かというと疑問なのだ。もちろん本書だけ読んで4一金型の優秀性を理解し、4一金型だけを指す、ということは十分に可能だ。ただ、それができるのであれば前2冊はラクに読めるはずだし、ということはやっぱり本書は難しいのか……。
評価が難しいので、とりあえず「そこそこ大変」とだけ覚悟して下さい(<をい)。

本書の特徴は、今までになかった「実戦編(という名称ではないが)」がついたところだろうか。

今までのシリーズでは、仮にそれが実質的に実戦解説であっても、形としては定跡解説の体だった。
しかし、4一金型は「少しの違い」がたくさん生じる実戦的な戦法のためか、全ての形を網羅的に解説という形にはしづらい。そこで、戦い方考え方だけでも判ってほしい、ということで、実戦編を設けたのだろう。
厳しいことを言ってしまうと、煩雑であってもきっちりと「定跡」を作ってほしかったな……と思うのだが。

以上のように、本書はかなり高度な内容になっている。
初段くらいでは厳しい。きちんと読みこなせれば3段クラスにはなっていると思う。

作成日:2005.03.30 
四間飛車

四間飛車の急所 3 急戦大全 下

四間飛車の急所〈3〉 急戦大全(下) (最強将棋21)
著者 :藤井 猛
出版社:浅川書房
出版日:2004-10-10
価格 :¥1,540(2024/09/01 09:45時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

「藤井の頭脳」とも言える四間飛車の急所シリーズ第3弾。今回はナナメ棒銀、4五歩早仕掛け、棒銀を解説する。

それぞれの形についてどんなことが書かれているかと言うと、

  • ナナメ棒銀は『新鷺宮定跡』の▲3九飛の周辺が基本。▲6八金型は2巻でやっているので、ここでは▲6九金型を解説している。▲3九飛を避けて△4五歩と開戦する形、▲3五歩と押さえる亜急戦の形も紹介している。
    △4五歩の決戦などはそれこそスーパー四間飛車世紀末四間飛車の頃からあった懐かしい形で、古くて新しい変化がいっぱいある。最近では振り飛車ワールドの2巻に指定局面戦があったが、その変化に対する回答も入っている。
  • 4五歩早仕掛けは、▲6八金型と▲6九金型の2種について解説。結論をおおざっぱに言うと、▲6八金型は振り飛車よし、▲6九金型は居飛車よし。そこで、▲6九金型の場合は玉頭銀で牽制する。
  • 棒銀は旧式の受け方から加藤流、△4二金型の受け、そして△4二金型を避ける居飛車の工夫。あと、△5三金と正面から受ける形。加藤先生の魂の叫びが聞こえてきそうだ(笑)。

といったところ。
ナナメ棒銀のところは前著との兼ね合いがあるので、できれば前著をもう一度読んで、それから本書を読み始めるといいと思う。

誤解を恐れずに個人的な感想を述べると、前著に比べると新手的な驚きは少なかった。その代わり、システマチックな感じがかなり強くなっている。
2巻の戦法ではいろいろ実戦的な指し方があったのだが、本書の形はかなり研究されているので、「実戦的」とか「裏技的」なものが少ない……という風に見える。玉頭銀も昔は実戦派が指すものだったが、いまやここまで整備されている。本書の驚き方はそんな感じだ。

本の編集の部分については完成された感がある。
いくつか誤植があったが、これは本というものの宿命と割り切るしかないのかな。しかし、▲4七歩を△4七歩という間違い方は少し罪が重い(笑)。4五歩早仕掛けで後手から△4七歩と叩くのは定番の筋だ。▲4七歩というのはそれを防いだ柔らかい好手なのだが、その説明の時に△4七歩と書いてあったので、読んでいて一瞬混乱するのだ(笑)。

次巻は△4一金待機型ということで、これは全く新しい攻防になるだろう。「急戦版藤井システム」とでも呼ぶべき形なので、早く読んでみたい。

作成日:2004.10.19 
四間飛車

四間飛車の急所2 急戦大全 上

四間飛車の急所 2 (最強将棋21 #)
著者 :藤井 猛
出版社:浅川書房
出版日:2004-08-01
価格 :¥1,650(2024/09/01 07:47時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

『四間飛車の急所 1』に続く、藤井猛の四間飛車解説本。
今回は5七銀左戦法に絞って解説している。もっと具体的に言うと、5七銀左の形から派生する急戦──山田定跡や鷺宮定跡、端角、ナナメ棒銀──についての解説である。
▲5七銀左の局面を基本図として、そこから振り飛車が△5四歩△6四歩△1二香△4三銀と指した場合のそれぞれについて、非常に深く解説している。
これ以外の急戦、棒銀や4五歩早仕掛けについては3巻で、振り飛車が4一金のまま待機する形については4巻でそれぞれ解説する。急戦だけで全3巻という、かなりボリュームのある内容となっている。

読んでみて驚いたのは、本当に手順が「システム化」されていること。本書を読むと、居飛車の仕掛けのパターンのようなものがよく判ってくる。
▲5七銀左の急戦の場合、端角のような特殊な形を除いて、大体が「▲3五歩△同歩▲4六銀」「▲3五歩△同歩▲同飛」の仕掛けとなる。あとは、これにバリエージョンが加わるだけだ。▲6八金直と入れてみたり、先に▲3八飛と回ってみたり、▲6六歩と突いておいて角を捌かせないようにしたり。同様に、振り飛車側の形も限られてくる。
本書は、この「パターンの組み合わせ」が実に判りやすく書かれている。居飛車はABCというパターンがあり、振り飛車はXYZというパターンがある。Aの仕掛けをすると最終地点はこの形で、Xだと振り飛車が得だがYだと居飛車が得になる。よって居飛車はXではこの仕掛けはせず、Bの仕掛けを選択し……といった具合である。もちろんこういった書き方ではないのだが、読み進めて行くと、このパターンの組み合わせが嫌でも頭に入ってくるようになる。

システム化されている、というだけでなく、一つ一つの手順が実に「正直に」書かれている。よくありがちな定跡書のような、どちらかにひいきするということは一切ない。妥協をすることなく、居飛車が有利な手順ははっきり居飛車有利だと言い切り、しっかりと対抗策を考えてある。そのため「形勢不明」「互角」という結果も多いが、それは正直さの裏返しということで納得しよう(笑)。
また、実戦的な手順も数多い。
例えば下図。

▲3五歩△同歩▲4六銀と仕掛けたところで、大体こういう局面で後手は△3六歩とするものだ。しかし、この形に限ってはという条件付き(厳密には違う。正確な表現は本書で確認して欲しい)で、△4五歩と突く手を紹介している。
△4五歩には▲3三角成△同銀▲3五銀と出る。居飛車がやけに調子がいいようだが、△3四歩と更に屈服の歩を打ち、▲2四歩△同歩▲同銀△同銀▲同飛に△3三角▲2一飛成△2二飛▲同龍△同角とおなじみの捌きをしてみると、意外や意外難しい、というのだ。
詳しい手順、形勢判断の根拠などは実際に本書を手にとって確かめて欲しい。ちなみに、この筋を応用した指し手も別のページで紹介されている。本書がシステム化を目指していること、また、実戦的な指し手が豊富に載っていることの証拠でもある一事だ。

本の体裁の部分にも、様々な工夫が凝らされている。
一番目を引くのは「藤井ファイル」と題された、各章のアタマに設けられたページで、このページで大体の流れは全てつかむことができる。極論を言ってしまえば、有段者の場合、立ち読みでそこだけさらえば本書の9割は読んだことになる。その気になれば20分もあれば十分に理解できるだろう。
というように立ち読みの人も配慮したレイアウトになっており……じゃなくって(笑)、まずこの「藤井ファイル」を読めば済むようになっている。詳解ページもきちんと振ってあるので、ここで形を調べて、具体的に解説にすぐ飛べる、というような、辞書的な使用がしやすくなっているのだ。これはなかなか画期的なことだと思う。
また、各章の冒頭には樹形図もあるので、振り飛車がどう待ち、居飛車がどう仕掛けるつもりかという大体の流れもつかみやすくなっている。

著者渾身の一冊であり、シリーズだと思う。
そしてまた、その意をしっかりと汲み取った素晴らしい編集だと思う。
居飛車党も振り飛車党も、ぜひ一度読んでみて欲しい。
単なる定跡書、というだけでなく、真理を追究する学問的な面白さまでもが味わえる一冊だ。

作成日:2004.08.13 
四間飛車

東大将棋ブックス四間飛車道場 第16巻 右四間飛車

四間飛車道場 第16巻 (東大将棋ブックス)
著者 :所司 和晴
出版社:(株)マイナビ出版
出版日:2004-04-01
価格 :¥58(2024/09/01 07:47時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

アマチュア待望の右四間飛車編。もっと早く出してくれてもよさそうなものなのだが……。ちなみに、これで四間飛車道場は完結だそうだ。

内容は、穴熊型、米長玉型、左美濃型、舟囲い型と、▲5九金右と固めたタイプ、6筋の歩を交換するタイプの計6種類。これに、3筋から桂が跳ねる形と、1筋から桂が跳ねる形のそれぞれ2パターンがからむ。
対する振り飛車側の対策も、通常の△5四銀型に加え、△4三銀型や、早く△3五歩と突いて石田流に組み替える形などがある。

一応の基本は押さえられていると思うし、最初の章でそれぞれの形に行くまでの手順がさらってあるので、これから右四間を指してみようか、という初段くらいの人には参考になるだろう。級位者には、東大将棋より三浦本の方を薦めたい。
また、6筋を伸ばす指し方を解説した本はおそらく初めてだと思う。白砂がコラムで書いたこの形のことで、この攻防は(やられたことがあるだけに)参考になった。とりあえず、「△4四歩にさすがに▲4六歩はないだろうから、この進行はだいたい妥当なところ」と書いた白砂はどうすればいいんだろう(笑)。
その他にも、『四間飛車の急所 1』に書かれた変化の上を行く変化(▲9九玉で▲5八金とし、後の▲4七金を見せる)もあり、有段者は是非とも買いの一冊となっている。

しかし、不満もいくつかある。
一番大きな不満は、振り飛車側の対抗手段がヘタレなこと。
例えば、上に書いた▲4七金。これは振り飛車側が早くに△3五歩~△3二飛と石田流を見せた手に対しての対抗策である。これを書いたことは素直に誉めたい。しかし、▲9六歩型の居飛車穴熊にはこの手段が載っていて、▲9七歩型の居飛車穴熊では一言も解説されていないのはどういうことか? ▲9七歩型では、振り飛車側は無難な手しか指していない。一手の違いが大きいのは分かるが、ならばなおさら、何故石田流はダメなのかをしっかりと解説して欲しかった。
同じように、△4三銀という形で止めるという有力な振り飛車の対策についても、触れている項と触れていない項がある。順列組み合わせではないけれど、全ての居飛車の囲いに対して、振り飛車側の対策は(少なくとも何もしないよりは)有効なはずである。ところが、それを省いて単純に居飛車優勢としている。
全く触れていないのであれば諦めもつくのだが(笑)、ヘタに書いてあるところと書いていないところがあるために、「これ、都合のいい手順にしたかったんじゃないのぉ?」みたいな邪推をしてしまう。

更に言うと、細かいところだが、振り飛車側から端歩を突くのも気になった。
右四間において、振り飛車から端歩を突いて得になるケースはさほどないと思う。むしろ、基本定跡に見られるような、駒を全部交換して▲9五歩が早くて勝ち、というパターンの方が多い。左美濃や米長玉においても、▲9六歩の価値は非常に高い。
その、居飛車にとってはおいしい端歩を、なんの解説もなく(本当にない。「手待ち」と書いてあるところすらあったように思う。待ってないで動けよ(笑))振り飛車側から突いているのである。

以上のように、東大将棋シリーズにしては珍しく、かなり居飛車側に立った解説だと思えた。
有段者から見れば、それらの手順が必要だったりその変化に持ち込まないのは必須だったりするのだろうが、白砂くらいの棋力の人ではそれは判らない。というか、そういう部分を詳しく辞書のように解説してくれるのが東大将棋の最大のウリだったと思うのだが。
「穴熊編」「その他編」と、2冊分冊にして、もっと詳しく書いてくれたらよかったのになぁ……と思う。最初に書いた通り、右四間飛車の解説はアマチュア待望のものなのだから。

作成日:2004.05.13 
四間飛車

四間飛車道場 15 藤井システム破り

四間飛車道場 第15巻 (東大将棋ブックス)
著者 :所司 和晴
出版社:(株)マイナビ出版
出版日:2004-02-01
価格 :¥868(2024/09/01 09:45時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

東大将棋四間飛車道場シリーズ第15巻は藤井システムvs急戦。
▲5七銀と上がった居飛車側が、穴熊に囲いに行くのではなく、▲3五歩、あるいは▲4六銀~▲3五歩と仕掛ける形を解説している。竜王戦の羽生-森内戦で出てきた形、と言えば、判る人も多いのだろうか?

こういう急戦は当然考えられてもいいところで、記憶では十年位前の『将棋世界』に武者野(だったと思う)が書いていた記事を読んだ記憶がある。その当時はまだ藤井システムも今ほど市民権がなく、「山田道美だったらこうやって急戦で潰しただろう」みたいな文章があったように思う。まぁ、それは置いておくとしても、藤井システムの異様な陣形を見れば、一目仕掛けたくなるところだろう。
振り飛車側にもいろいろな「寝技」の選択肢はあり簡単ではないが、初段くらいのシステム党相手になら十分に通用する急戦策ではないだろうか。

類書があるかと思っていたが、意外と多くなかった。
『島ノート』には急戦は1つしか載っていないし、『四間飛車の急所』も△6二玉型の急戦は載っていない。調べたところ、『最前線物語』に1章数ページ分と、『振り飛車ワールド』の千葉講座にあっただけだった。
これを考えれば、システム党も手元に置いて損はない本だと思う。

それぞれの急戦策は関連しているようで独立している部分も多いので、要は1冊に3本の急戦策が載っている本と考えればいい。それぞれの変化は多くてもタカが知れているので、本シリーズの「クソ編集」でも十分読みこなせる。
シリーズには珍しく、初段くらいの読者にも薦められる本だ。

作成日:2004.02.23 
四間飛車
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