四間飛車の急所 1
もはや現代振り飛車の教祖となった(笑)著者が、過去の膨大な棋譜・経験を通して四間飛車の全てに迫る本。第1巻の本書は、いわばそのイントロダクションとも言える「歴史編」だ。
ほとんど全ての戦法について、どんな形が登場しどんな対抗策が出て現在の最新形は何か、といった変遷が書かれている。
いわゆる「定跡書」としての位置付けではないので、指し手一つ一つに解説が入ってるわけではない。局面によっては符号が十数手続いて「……という変化で先手が悪い。よって……」といったような書き方もされている。それでも読んでいて判りづらくないのは、図面が多いことと、冷たすぎるほどに客観的に○×で局面を判断しているからだろう。「この手順だと先手不利になる(図面)。そこで修正手順でこう指すと先手有利になる(図面)。この展開はまずいので後手は新手を出し……(図面)」といった具合で、きちんと学術書のように分類整理されている。
5筋位取りや右四間飛車といった(特にプロ間では)マイナーな戦法についても解説がある。特に右四間飛車の項はアマチュアには参考になるだろう。ページとしては少ないが、そこらの定跡書よりはよっぽと役に立つ。ミレニアムついては最後に少し載っているだけだったが、これで十分なのかもしれない。個人的には、新しい指し方だからまだ分析ができていない、というより、藤井個人としてはミレニアムを恐れていない、という風に感じた。居飛車穴熊の項に比べると、客観的で冷静というよりは淡白で冷めている文章、と思えたのだ(ホントに個人的な感想ね)。
『最前線物語』や『島ノート』は、同じようにプロの棋譜を漁っていても、研究というよりは最新の動向を紹介する本という感じがする。たとえて言うなら社会学の世界だろうか(もっとも、社会学とはなんぞやという問いは非常に難しい話なのだが……)。『角換わり腰掛け銀研究』の全てを探求せんという姿勢は完全に数学者の世界である。
そして本書は、『消えた戦法の謎』のような歴史学的手法で書かれた本だ。
ただ、『消えた戦法の謎』が完全に歴史の話をしている(なにしろその戦法は「消えて」いるわけだから)のに対し、本書は歴史を探りつつ現代の最新形を紹介するという二重構造になっている。
その辺りが、非常に「お得感」が強く、また、名著だと感じさせる要因なのだろう。
こういった試みは、ある意味採算を度外視しないと成り立たないものでもある。手を抜くことが許されないからだ。
我々アマチュアができることは、こういった良書をしっかりと評価し、「購入」という賛成票で応援することくらいだろう。
しかしそれくらいしかできないからこそ、それくらいのことはしっかりとやっていきたい。