鷺宮定跡 歴史と最先端

鷺宮定跡: 歴史と最先端
著者 :青野 照市
出版社:(株)マイナビ出版
出版日:2005-03-01
価格 :¥1,659(2024/09/01 09:45時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

鷺宮定跡の創始者であり、急戦の大家である2ch名人青野の著した急戦本。
鷺宮定跡、新鷺宮定跡を主に解説しているが、その性質上、4六銀戦法なども入り混じっている。

もともと青野の定跡本は「(外れがないという意味の)カタい」本なので今回も安心して読んだのだが、歴史というか移り変わりというか最新定跡を追うのではなく、そこに行き着くまでの攻防に焦点を置いている感じの本だ。
事実、最新の攻防と言えるのは最終章くらいで、それ以外の内容は別の本で十分すぎるほどカバーできる。例えば藤井本渡辺本などでも「この攻め方は振り飛車側のうまい受けがあってすたれ、代わって○○という指し手が……」というような解説が散見されるので、歴史に焦点を当てるのは正直「今さら感」がなくはない。
ただ、青野が書いた、という点に注目をするなら、これはまさに自分が戦ってきた歴史を証言しているようなものなので、そういう読み方をすればまた面白く読める。

最終章は最新の定跡が載っていて、また、同時に居飛車側の課題という部分もある。
悪い表現をすると居飛車有利にはならないということなのだが、この形が現在のプロのテーマになっているということを正直に紹介してくれたことには素直に驚いた。自分には判らない、ということは、なかなか言えないことだ。

また、これはどの本にも言えることなのだが、急戦は特に「その局面をどう見るか」という大局観の問題が関係する。
詰みまで研究すれば大局観もクソもないのだが、その前で終わっている場合は、その局面を持って「やれる」かどうかを自分で判断しないといけない。居飛車振り飛車双方が自分よし、と思っている局面もあるし、逆に双方自信なし、として避けるケースもあるだろう。
この部分が、居飛車党と振り飛車党では違うし、同じ振り飛車党でも微妙に違う。
最近は急戦本が数多く出版されているので、それらの主張を比べてみることも面白いだろう。

作成日:2005.05.08 
四間飛車

加藤の振り飛車破り決定版

加藤の振り飛車破り 決定版 (パワーアップシリーズ)
著者 :加藤 一二三
出版社:マイナビ出版(日本将棋連盟)
出版日:2005-03-01
価格 :¥1,430(2024/09/01 21:34時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

ここのところやけに精力的に出版を続けている加藤一二三の本。一体なにがあったんだろうか?
あまりいろいろ考えすぎるとちょっとシャレにならないことまで言ってしまいそうなので深くは追求しない(笑)。

まず驚かされたのが、「これを出すんか今!」というレトロ感漂うラインナップ。

第1章 5筋位取り戦法

第2章 矢倉戦法

昭和か? 昭和なのか!?
矢倉戦法については昔緑の表紙の加藤本を読んだことがあって、こないだ古本サイトを覗いていたら売ってたんで衝動買いしてしまいました(笑)。
その内容とそんなに変わってません、これ。

その他の戦形はさすがに「今の」将棋の解説だが、あまり他の本と変わるところがない。
最後の章の「とっておきの作戦」というのはなかなか面白かったが、これも解説と呼べるほど分量が多いわけではなく、どちらかと言うとカタログに近い感じがする。

正直言ってやや不完全燃焼ぎみなのだが、加藤先生が出す、ということに意義があるのだろう。
いつだったかの『将棋世界』で、「楽しそうに原稿を書いている加藤先生がいた」みたいな文章を読んだ。それが本当だとするとやっぱりこれはゴーストなんかではなく自分で書いているもので、そのバイタリティーは凄いと思う。

作成日:2005.05.08 
振り飛車全般

四間飛車破り 急戦編

四間飛車破り【急戦編】 (最強将棋21)
著者 :渡辺 明
出版社:浅川書房
出版日:2005-04-22
価格 :¥1,540(2024/08/31 22:47時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

竜王になって今一番注目を浴びている若手、渡辺の処女作。
急戦編、ということで、今回は4五歩早仕掛け、5七銀左(鷺宮)、棒銀について解説している。

体裁としては藤井本と似ていて、各テーマ図があって解説していく形。ただ、個人的な印象としては、藤井本ほど一本の流れがあるわけではなく、むしろ放射状にいろいろな形を解説している感じがした。
基本/上級/プロ級と項分けしてあるのも面白いところだ。
基本では「その形で勝つ側」から見た理想手順、上級では枝分かれや変化技など、プロ級では踏み込んで具体的に勝ちになる手順、といった感じで解説していく。ただ、じゃあ級位者は基本のところだけ拾い読みするかというとそういうことはなさそうなので(笑)、要は順番に難しい話をしていくよというマーキング程度に考えればよい。

この「プロ級」がまた曲者で、とにかく変化が多い。
図面もかなり贅沢に使っているのだが、それでも追いつかないほどの符号の嵐。これはさすがに盤駒がないと厳しいかもしれない。初段程度ではまずムリ。3段くらいの人でやっとどうか……といったところか。

最新形や独自の大局観にも触れているし、他の棋書や棋士名が頻繁に出てくるのも面白い。プロ棋士がここまで類書と自説を比較する本というのもなかなかないのではないだろうか。師匠に気を使わんでいいのか? と少し気になったほどだ(笑)。
その中で、加藤一二三に触れている部分もあった。当然棒銀のところね(爆)
加藤本では、棒銀は△4二金とされると困る、というのが結論として書かれているが、渡辺に言わせると、そもそもその形にするのが悪いんだそうだ。「他の棋士は指さないのに、一人だけここで▲2六銀と上がる」みたいなことが書かれていて笑った(←ごめんなさい)。
加藤本を読んで棒銀の未来を悲観した人は、迷わず買い。

作成日:2005.05.08 
四間飛車

四間飛車の急所 4 最強の4一金型

四間飛車の急所 (4) 最強の4一金型 (最強将棋21)
著者 :藤井 猛
出版社:浅川書房
出版日:2005-03-05
価格 :¥1,540(2024/09/02 11:59時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

『四間飛車の急所』シリーズ第4弾。
今回は後手四間飛車側が△5二金左を保留した形を解説する。

形自体はそれこそ大山時代からあった指し方で、部分的な裏技としてはいくつかの棋書でも散見できる。有名なところでは、対右四間飛車で▲1一角成△3一金として後手有利、というものがある……といって判る人が意外と少なかったりして……。
白砂の個人的なことを言うと、学生時代に高井さんがこの形を得意にしていて、急戦を袖飛車で破って勝星を荒稼ぎしていた。居飛車穴熊が出てしばらくの頃で、その頃は「鷺宮定跡」誕生などもあり、まだ急戦も多く指されていたものだった(<遠い目)。

まぁ、とにかく4一金型。
基本的なコンセプトは、△5二金左としないことにより、盤面右側に金を応援に出しやすくし、急戦を正面から受け止めようというものだ。また、△5四歩△6四歩といった歩を突かないことにより、△6四角とか△5四銀といった通常の定跡では生じない筋が発生することもある。もちろんこれはメリットばかりではなくデメリットもあってなんとも言えないところだが。
矢倉において飛車先不突きが誕生したように、金上がりを保留することによって、居飛車の態度に合わせてこちらの体勢を変化させることができる。これが本書の4一金型の狙いである。

そういう事情であるので、できれば、というか必ず2/3巻は読んでおかなければならない。「従来の形と比べて」という比較が多々発生するからだ。形は全然違うが、『高田流新戦略3手目7八金』と同じように、少しでも得をしようという志向レベルの高い形である。

内容は、そういう事情もあってか意外と薄い。
いや、こういう言い方は語弊があるか。比較対照という作業が多いため、新しく変化を覚えるという感じにはならないので、そんなに苦にならずに読めるのだ。少なくとも、既刊の2冊を読みこなせるレベルであれば本書はラクに読めるだろう。
もっともここが評価の難しいところで、ということは前2冊をきちんと理解せず本書を読んだ場合、どの程度それが「役に立つ」かというと疑問なのだ。もちろん本書だけ読んで4一金型の優秀性を理解し、4一金型だけを指す、ということは十分に可能だ。ただ、それができるのであれば前2冊はラクに読めるはずだし、ということはやっぱり本書は難しいのか……。
評価が難しいので、とりあえず「そこそこ大変」とだけ覚悟して下さい(<をい)。

本書の特徴は、今までになかった「実戦編(という名称ではないが)」がついたところだろうか。

今までのシリーズでは、仮にそれが実質的に実戦解説であっても、形としては定跡解説の体だった。
しかし、4一金型は「少しの違い」がたくさん生じる実戦的な戦法のためか、全ての形を網羅的に解説という形にはしづらい。そこで、戦い方考え方だけでも判ってほしい、ということで、実戦編を設けたのだろう。
厳しいことを言ってしまうと、煩雑であってもきっちりと「定跡」を作ってほしかったな……と思うのだが。

以上のように、本書はかなり高度な内容になっている。
初段くらいでは厳しい。きちんと読みこなせれば3段クラスにはなっていると思う。

作成日:2005.03.30 
四間飛車

木村一基の急戦・四間飛車破り

木村一基の急戦・四間飛車破り (NHK将棋シリーズ)
著者 :木村 一基
出版社:NHK出版
出版日:2005-03-01
価格 :¥250(2024/09/01 02:46時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

NHK将棋講座のテキストに加筆修正したもので、棒銀戦法、ナナメ棒銀戦法、▲4五歩戦法、鷺宮定跡の4つの急戦を解説している。

内容はかなり高度なものだが、急戦一本と絞っているので読んでいてもそんなに苦にならない。以前白砂のコラムでもちょこっと述べた通り木村さんは「四間飛車は急戦で潰せる」と言っていた(奨励会3段時代)人なので、実戦に生じやすい形に多く解説を割いている。

ライターの小暮さんが関わっているようで、それも本書の解説が判りやすい一因になっているのだろう。
また、NHK鈴木本と同じく、限られた時間の中で区切る解説になっているので、改めて読むと「もう少し変化の解説があればなぁ……」と思う部分はある。しかしまぁ、そんなに多くはないのでこれは気にしすぎかもしれない。

それより気になったのは、変化図等でところどころに出ている、色の変わったマス目。

本書では、というかNHKの解説当時から、「▲○○×」といった眼目の指し手をキャッチーに紹介、という体裁を取っている。例えば「強く前進▲3五銀」といった感じに。
そのため、その章の図面はほとんど全て、上の例で言うと3五の地点がグレーで塗られているのだ。

これがどういう効果をもたらすか。

いい意味では常にその地点を注意して読むことができる。だから、「ここが急所だからこういう手を指してるのか……」といったことが直観的に理解しやすい。
しかし悪い意味で言うと、ひとつの図面の中に「直前の指し手が太字で」「急所のマス目がグレーで」という二つの強調が混在することになって、少しうっとうしい。
あくまでも個人的な感想なのだが、これはちょっと失敗かなぁ……。
もちろん、意欲は買うし、この形式が解説の理解の助けになっていることは間違いない。
グレー部分を少し薄くするとか、もっと違う強調方法にするとか、もう少し改良すれば、初級者中級者向けの新しい解説方法として使えると思う。

作成日:2005.03.30 
四間飛車
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