将棋墨酔
現在は鬼籍に入られているが、七条兼三という詰将棋作家がいた。詰将棋作家であるだけでなく、将棋会館建設などに際して多額の寄付金を出すなど、将棋界の「旦那」的存在の人である。
その七条氏の追悼として出版された、氏の作品集である。
詰将棋に詳しくない人のために解説すると、詰将棋は「より易しく楽しい作品を」という方向と「より難しい困難な条件の作品を」という方向の二つに大きく分かれる。七条氏は後者の筆頭的存在であった。
氏の作った条件作は枚挙に暇がない。
順列七種中合、七歩連続中合、純「と金」詰、角打ち角合28回、四形合四形詰、歩なし無防備煙詰、五種不成り煙詰……。
詰将棋を作ったことが少しでもある人なら、簡単な詰将棋でもどれだけ作るのが難しいか判る筈だ。それを、この信じられない条件下で作成してしまうのである。
詰将棋は芸術品である。
新聞雑誌に載っている「5分で初段」と一緒に考えてほしくない。
人間の頭脳がどれだけ凄いことができるのか、自分たちのよく知っている「将棋」という題材で七条氏は証明してくれた。
ぜひとも「鑑賞」していただきたい。