■ 第55回NHK杯佐藤康vs青野戦より 〜叩き合う棋士〜 | Date: 2005-11-23 (Wed) |
昨日のNHK杯戦は佐藤康光vs青野照市。
緒戦のvs片上4段戦では後手番にもかかわらず千日手を打開し、壮絶な殴り合いの末勝利という非常に若々しい指し口を披露して快勝したが、2回戦の相手はシードの佐藤。これはさすがに少し苦しいか……と思っていたのだが、いやいや、面白い将棋でした。
第1図は後手の青野が一手損角換わりを志向し、佐藤が反発して急戦を仕掛けたところ。
△3五同歩▲同銀△3四歩▲2四歩△同歩▲同銀△同銀▲同飛……と進めばさすがに先手がよさそうだが(それでも微差だとは思うが)、さすがにこうはならない。
ちなみに、後手に1歩ある場合──第2図など──の場合には、こういう受け方もある。
△3五同歩▲同銀△3四歩▲2四歩△3五歩▲2三歩成△2七歩▲同飛△4五角(第3図)で後手有利。
△4一玉の形だとここで▲3二とが王手になってしまうので成立しない受けだが、第2図は後手が居玉なのでこういう受けもできる。
『将棋は歩から』中巻の「死角の歩」にも載っている手筋で、小学生の頃、読んで感動した覚えがある。応用範囲の広い手筋なので、知らなかった人はこの機会に覚えておくといいだろう。
さて、本局は歩が足りなのでこういう受けは使えない。
そのためこういう展開となった。
△4二飛▲3四歩△同銀▲2四歩△同歩▲同飛△2三金▲2八飛△2四歩(第4図)
△4二飛と反撃含みに受けるのが、△4四歩という指し手を継承した展開だ。
利かされているようでも、次に△4五歩と突く手がある。▲3五歩は、△4五歩▲3四歩△4六歩で大決戦になりそうだ。こうなると、一手損角換わりの「飛車先を突いていない」得が生きる(玉が6二〜7二へ行った時、スキがない)展開になりそうだが……?
▲3五歩△4三銀▲5六角△3三金▲8三角成(第5図)
決戦が見えていて、それでも踏み込むのが佐藤の棋風だった。
△4五歩は、▲3四歩△4六歩の瞬間が怖いが、冷静に▲4六同歩(第6図)と手を戻せば先手がよさそうだ。
△4六同飛は▲5五角が飛香両取りになるし、△4七角は▲2二歩(第7図)がピッタリの反撃となる。以下△2二同飛(△同金は▲3一銀が嫌味)▲4四角△3六角成▲2二角成△同金▲3三歩成△同金▲3一飛ともなれば成功だ。
そこで△3三金と辛抱したのだが、▲5六角が当然ながら痛い。結果的に▲8三角成と馬を作られてしまった。
第5図で△7四銀▲8四馬△8二飛と馬を追う手が成立すれば後手も面白いのだが、この場合は▲6六馬(第8図)と引かれてしまってうまくいかない。
この馬に無事生還されては先手の得だけが残ってしまう。
青野2ch名人(笑)ピンチ!
しかし、ここから思いもよらない展開へ突入していく。
△4五歩▲5五銀△5四歩▲6一馬△同玉▲5三金(第9図)
△4五歩がギリギリの反撃だった。
▲4五同銀なら△5五角(第10図)と打とうという狙いで、飛車が逃げればそこで△7四銀▲8四馬△8二飛とする。今度は▲6六馬とできないから後手が有利だという理屈である。
△4五歩に▲3七銀と引いても△3六歩▲同銀△5五角があるから似たようなもの……というわけで、▲5五銀はこの一手。
対する△5四歩ももはやこう攻めるしかなく(攻める気がなければ△4五歩は突く必要がない)、これに▲6六銀と引くのもやはり6六の地点が塞がるためまずい。かくして、△4五歩から一直線の叩き合いとなった。
そうして迎えた第9図。
こんな形で両取りを指されて幸せになった人はいないのではないかという気がするが(笑)、まだまだ後手は踏ん張る。
△8二飛▲6二銀△同飛▲同金△同玉▲3一飛(第11図)
△8二飛は一応攻めを見た手ではあるが、▲6二銀から清算されるとその一手は消滅してしまう。そうして▲3一飛と打ち込んだ第11図。アマチュア同士なら絶対に先手が勝つだろう。
ここで解説の田中寅彦は、△5四角▲2一飛成△3二銀(第12図)という龍捕獲を解説した。
ただ、このあと▲1一龍なら△2一金でうまいが、▲3一龍だと△4一金▲1一龍で面倒なことになる。△4一金で△2一金だと▲4二龍△5二銀合▲4四桂でなんだかややこしいことになり……といった辺りで「まぁ人の将棋だし」と解説放棄(爆)。
しかし、後手の青野はもっと過激なことを考えていた。