将棋コラム


  棒銀vs四間飛車 定跡外の攻防 Date: 2006-03-23 (Thu) 
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 第1図は奨励会3段リーグの一局。
 棒銀vs四間飛車の戦いで幾度となく現れた形で、▲4五歩に△4三金と受け、▲4四歩△同金▲4五歩で第1図となる。定跡ではここから△4三金▲1一角成△3三桂……と進んでいくのだが、ここから思いもよらない展開となった。

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第1図からの指し手 △3七歩(第2図)

 なんと、第1図で△3七歩と叩いたのだ。
 こんな手は見たことがない……と思って、手元の棋書を漁ってみたのだがどこにも書いていなかった。『四間飛車の急所 第3巻』など、基本図が第1図より先の局面だ(笑)。
 この将棋、白砂はCATVの『めざせプロ棋士! 奨励会育成会奮戦記』で見たのだが、解説の豊川きんにくん曰く「他の棋士に聞いてみたところ、昔は指されていた手。その棋士は最近研究会で指したこともあった」ということらしい。

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第2図からの指し手 ▲3七同飛△3六歩▲同飛△4五金▲3九飛△5五歩(第3図)

 解説によると、第2図では▲3七同銀と取った方がよかったらしい。
 実戦では▲同飛と取った。しかしこれは後手の研究範囲で、△3六歩ともう一発叩いて△4五金と出る。これが飛車に当たって先手が取れるというのが第1図△3七歩の効果だ。
 先手は飛車を引くしかないが、△5五歩が振り飛車絶好の手筋で好調である。

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第3図からの指し手 ▲3七銀△5六歩▲4八銀左△3三桂(第4図)

 ▲3七銀と引くのは仕方がない。
 ▲3五歩と強く行きたいところなのだが、△5六歩▲4八銀△4三銀▲1一角成△4四角(変化1図)で後手有利。△1二香と上がっているため、▲1一角成はさほど怖くない。△4三銀から△4四角が絶好の捌きとなる。

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 △5六歩にも▲4八銀左と耐える。ここでも▲4六銀左と殴り合いに行く手は、△3六歩▲4五銀△同銀▲4八銀△5七銀(変化2図)で後手有利。△5六歩の拠点が残ったままで戦いになっては先手は勝てない。

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 ここまて決めてから△3三桂(第4図)と跳ねるのが、解説曰く「これが見えたら振り飛車8段」の一手だそうだ。確かに、遊びそうな桂を捌く振り飛車らしい手ではある。

 振り飛車好調に見える第4図。しかし、今度は先手が粘りを見せる。

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第4図からの指し手 ▲5四歩△2五桂▲4七歩(第5図)

 まず▲5四歩と歩を垂らしておく。これは攻めではなく、どちらかというと受けの手に近い。△4四角という捌きの手を消しているのである。
 第4図の局面を仮に後手番だとして見てほしい。△4四角▲同角△同金と進めると、次の△4五桂が絶好の一手となっている。しかし、▲5四歩と打っておけば、△4四角には▲同角△同金▲5三歩成(変化3図)とと金を作れる。これは先手有利だ。

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 そこで後手は△2五桂と跳ねたが、じっと▲4七歩(第5図)と受けたのがまた渋い。

 ▲4七歩では▲2八銀と銀を逃げておきたいところだ。
 しかし、それでは△4七歩▲同銀△4六歩▲3八銀△4三銀▲1一角成△4四角(変化4図)とめいっぱい捌かれてしまう。これは駒効率が違いすぎる。

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 そのため、先手は銀桂交換に甘んじてでも△3七桂成▲同桂と桂を捌いていくことを選択した。そして、△3七桂成▲同桂と進んだあとの△4七歩や△4六金という手を消すために、▲4七歩と先受けしたのである。
 この粘りが素晴らしい。

 第5図以下は△4三銀▲1一角成△5四銀▲2一馬△3四飛▲1二馬△3八歩▲5九飛△3七桂成▲同桂△3六金……と進んでいったが、このあと先手が渾身の勝負手を放ち、秒に追われた後手が正着を逃したため先手の逆転勝ちとなった。
 ▲5四歩、▲4七歩といった粘りが報われたのである。



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 さて、将棋は先手の勝ちに終わったが、後手の仕掛けが悪かったかというとそういうわけではない。
 実際、解説の評では「▲5四歩、▲4七歩で形勢は縮まってきたが、それでもまだ後手が少し有利」とのことだった。また、勝負手をきちんと受けていれば後手の勝ちだったし、そこ以前にも何度か決め手を逃していたようだ。
 逆に、第2図の△3七歩を▲同銀(第6図)と取った場合、この仕掛けは成立しているのだろうか?
 第6図以降の指し手を少しだけ探ってみたい。

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 解説では、ここから△4五銀▲2四歩△同歩▲2八飛△3六歩▲4八銀左△2二飛(第7図)という手順が並べられ、ここで▲4七銀か▲3五歩(次の▲4六歩狙い)で少し先手が指しやすそう、ということだった。
 しかし、△3六歩に▲4八銀左ではなく▲2四飛と攻めあって来るかもしれないし、それを警戒して逆に△2四同歩のところで△3六歩と先に歩を決めてくるかもしれない。また、最後の△2二飛で△4七歩と一発利かしてくる手もありそうだ。

 整理しよう。

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1.第7図から▲3五歩△5五歩(第8図)

 第8図から、▲4六歩△5四銀▲5五歩△6五銀▲4七銀、あるいは単に▲4七銀といった手が考えられる。少し後手が動きづらい感じはする。

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2.第7図から▲4七銀(第9図)

 じっと銀を上がられても難しそうだ。

 △5五歩と一本突いてみたいのだが、▲4六歩△5四銀▲5五歩△6五銀となると、そこで▲3五歩と打てば1.の変化に合流する。その流れで▲3五歩とは打たないだろうから、それはつまり「1.の変化より▲3五歩と打たなかっただけ先手が得をした」ということになる。それは後手としては選択したくない。もっとも、じゃあ▲3五歩に変わる有効手があるかというと難しいので、やはり難解としか言いようがない。

 どこかで△3三桂と跳ねる手、△4六歩▲同銀左△同銀▲同銀の交換を入れる手など、有効な指し手はいくつかある。なんとなくではあるが、それだけの手段があるのであれば、それらを正しく組み合わせれば後手が指せそうだ……という気がする。

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3.△3六歩に▲2四飛と攻め合い(第10図)

 以下、△3四飛と受けるのは▲2一飛成△3七歩成▲1二竜となって、これは▲7五桂〜▲6三香の狙いがあって先手が指しやすいか。▲3五歩△同飛▲4四角(△同角は玉の素抜き)といった手もありそう。
 また、△3七歩成とすぐに取るのも、▲2一飛成△3六飛▲1二竜△5五歩(▲6三香△同銀▲4四角の防ぎ)▲7五桂で、先手が一歩早く攻めている感じだ。

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4.▲2四歩に△同歩ではなく△3六歩(第11図)

 3.の展開が不満であれば、▲2四歩に△3六歩と先に決める手も考えられる。
 第11図から▲2三歩成という手は、△3七歩成▲同飛△同飛成▲同桂△4九飛▲4五桂△同金と進めば桂得で飛車を先着している後手が指せそうだ。その流れの中で先手になにか手段があればいいが、そうでなければ▲2三歩成は選択できない。

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 また、第11図で▲4六銀右とぶつけていくのも、△同銀▲同銀△4九銀(第12図)の割り打ちがあって指しにくい。以下、▲2三歩成△3八銀不成▲3二と△4九飛と飛車を先着して後手が少し有利か?
 以上の変化が後手よしであれば、第11図からは▲4八銀左の一手となり、そこで△2四同歩と取れば3.の変化は回避できることになる。もっとも、それで第7図以下の1.や2.の展開に持ち込んで後手が有利かどうかは別問題だが。


 大体こんな感じだろうか?

 これ以上突っ込んで研究するのはやめておくが、少なくとも居飛車党は、これらの局面についての自分なりの考えは持っておいた方がいいだろう。指されてから「知りませんでした」では通らない。対策の一つは持っていないとまずい。

 それにしても、こんな基本形の局面にも手はあるものである。
 手垢のついた言葉で恐縮だが、将棋の奥深さと定跡のいいかげんさ(笑)を改めて思い知った。

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