将棋コラム
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時には顔面で、そして冷静に |
Date: 2003-09-28 (Sun) |
第1図は最終盤。CATVを見ていたら偶然映っていた盤面である。銀河戦、中川−佐藤(康)戦。
おそらく、先手の中川が▲2五歩と打ち、△同歩となった局面だと思う。
駒がたくさんあるとまずいが、そうでなければ先手玉は詰まない。△5八歩成が回る前に攻め切らないと負け、という局面だ。かなり不利なのだが、逆転はあるのか。
白砂が見ていて、パッと目についた手があった。
しばらく考えた後、中川もその手を指す。
▲2四歩△同銀▲2五飛△同銀▲2四歩(第2図)
第1図では先手がかなり不利だと思うのだが、頼みはやはり9五まで突き越した端歩である。最後▲9六玉、と逃げて桂がないので詰まない、なんていう形になりそうだ。
というわけで、2手スキで迫る。▲2五飛は豪快な手だが、▲2五歩からの一連の流れと考えればさして難しくないだろう。
第2図となって、これは中川がギャクったかと思った。
単純な△5八歩成は▲2五桂(第3図)でほぼ必死である。先手玉が詰むかどうかの勝負だ。
詰みがあるのかないのか、先手玉を寄せることができるのか。
最終盤、時間はほとんどない。
そんな中、佐藤は少考の末に次の一手を放った。
△3三玉(第4図)
こういうのがプロなんだよなぁ……。
一瞬怖くても、▲2五桂△2四玉となって「桂先の玉」の形。こうなると後手玉が見えにくく(寄せにくく)なる。
桂が入りそうになったのも大きい。先の「▲9六玉と逃げて桂がないので詰まない」という筋が、これによって「▲9六玉と逃げて▲8四桂で詰み」に変わってしまったのだ。
中川は仕方なく▲5一馬△4二銀▲6一馬と▲3四馬狙いで攻めたが、強く△4三金と受けられ(形よく△4三銀は▲5一馬と戻られてもう一山ある)てしまった。
そこで▲3二銀と引っ掛けたが、ここまで引き伸ばせば時間はたっぷりできた。
△5八銀成と見切って、▲4三銀不成△同銀▲同馬に、△8八銀▲同金△同歩成▲同玉△7七銀▲9七玉△8七金▲同玉△8九飛▲7七玉△6七歩成 ▲同玉△6六金▲5八玉△5七金(第5図)で詰みとなった。
△5七金が当然ながら大事なところで、ここを△5七歩などでは詰まなくなる。
この手順で判る通り、先手玉は飛銀と8八に打ち込む駒があれば詰む形だった。ということは第3図では詰みがあったのだ。
これを見て「即詰みを逃した。佐藤って弱ぇ〜」と言うのはたやすい。しかし、実戦的には佐藤の指した手が正着だったと白砂は思う。
時間がなかったこと、いきなり詰ましに行くよりもはるかに自玉が安全になったことがその理由だ。
実戦とは、そういうものだと思う。
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