将棋コラム


  敗局は師なり 〜終盤の叩き合い〜 Date: 2004-01-08 (Thu) 
 2項に分けて同じ将棋を解説したが、最後にもう一つ。序盤あれだけ有利に進めていながら、どうして混戦になったのか? その辺りを考えてみたい。
 中盤でもいろいろあったのだが、決定的なのは終盤に入ってからだと思う。
 第1図はその終盤の入り口、後手が△5九角と打ったところだ。

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 先手は右翼から攻めているものの、5二金と5一香が「金底の香」になっていてなかなか固い。とすると左から攻めるしかないと思うのだが、そちらも金銀香が頑張っていて手が出せない。なんとなく攻めあぐんでいる感じだ。
 とりあえずは△9五角成を防がないといけない。
 で、実戦はこう進んだ。

▲9九香△8七香成▲同銀△8六歩▲同銀△同角成▲8八香△7六馬▲7七歩△7五馬▲6六桂△8六歩(第2図)

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 第2図では、後手玉の「広さ」が第1図のそれとは段違いに広くなっている。先手の持駒も飛車一本になってしまったし、ここではもう混戦になっていると思われる。とすると第1図から第2図の間に何かが起きたのだ(笑)。
 それはどこか。

 先手の手にはさほどの悪手はないように思える。
 ▲9九香で9五の香取りを防ぎ、△8七香成からの攻めには▲8八香と切り返す。▲6六桂は△5七馬と入られるのを防いだ手だ。
 どこがおかしかったのか。

 まず、▲6六桂が弱気に過ぎた。ここは▲8二香成(第3図)と踏み込んで勝ちである。

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 実戦では、この局面で銀が手に入るのを失念していた。△5七馬に▲6八銀とはじけないと考えてしまったのである。なので、
「▲8二香成△5七馬に桂合いは△8二金と手を戻されるし、かといって▲8八玉とか▲8九玉は△6九銀とか王手の叩きとかあるしなぁ……」
 と読んで▲6六桂と受けたのだ。単純な読み抜けである。
 昔から、よく「もの凄く強い相手にも一発入れるのに、ポカで将棋を落とすことも多い」と言われていたが、大体がこの類の読み抜けだ。こればっかりは直しようがないのかもしれない(いや、単純に読みの精度が上がればいいだけの話なんだけどね)。

 もっとも、▲8二香成△同金(第4図)の時の寄せが判らなかった、というのもあるかもしれない。
 次の一手として出題されれば、第4図はさして難しくない。

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 ここで▲7一銀という手はすぐに出てくるだろう。
 △同玉は▲5二馬。逃げても8二金を取ってやはり▲5二馬である。先手玉はまだ詰まないので、この程度の寄せでも十分だ。

 もう少し前にも寄せはあった。
 △8六歩(第5図)と叩かれた局面だ。

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 秒読みということもあり、とっさに▲8六同銀と取ってしまったのだが、この局面を見てみれば先手玉はほとんど「ゼ」。まず詰まない形だ(ものすごい持駒があれば、8八に捨駒をして詰んでしまうだろう)。
 であれば、ここは絶好のチャンスだった。

 具体的には、▲5二角成△同香▲8五桂(第6図)

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 文字通り「包むような寄せ」だ。
 第6図で△7一金は▲7三金△同銀▲7一龍△同玉▲7三桂成(第7図)で綺麗な必死。
 また、△6一銀と受けるのは▲4一飛△7一金▲7三香△同銀▲8三金(第8図)でやはり必死だ。△5一銀は▲4二金でこれも受けがない。

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 第5図の局面を次の一手として出題されたら、これもほとんど一瞬で浮かんでくる筋だ。で、▲8五桂の局面からの寄せも、そんなに考えることなく出てくると思う。
 しかし、実戦ではなかなか指せない。難しいものである。

 こういう、終盤での叩き合いの時、ビビらずに突っ込める人が本当の意味での有段者なのだと思う。そういう意味では、現在の白砂はまだまだ実力不足ということだろう。数年前の自分だったら、こういう寄せを逃すことはなかった。
 やっぱり将棋も歳を取ったのかなぁ……(泣)。
注:図面を書いている作業中に気づいたのだが、第7図の局面、先手の玉は△6九飛▲同玉△7七桂以下詰む。よって、第6図では、△7一金に▲7三香と攻めるのがいいと思う。これも▲7二金△同金▲同香成△同玉▲7三金△同銀▲7一飛以下の詰めろなので、先手が勝ちだろう

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