将棋コラム


  じっと待つ、ということ Date: 2004-08-11 (Wed) 
 せっかく整理していた棋譜が、OS再インストールの際に消えてしまうという痛恨の一撃を喰らってしまった。
 現在、もう一度最初っから整理をし直しているのだが、棋譜には必ずコメントをつけるように心がけているので、コメントのない棋譜が出てくると並べて調べて……という作業を行うことになる。
 これがまた、昔の若い頃の将棋だったりすると、調べながらなんだか恥ずかしいやら悲しいやら、やっぱ弱いんだな俺って……という気分になってしまう(笑)。特に負けた将棋を見ているときはヘコむ。

 今回は、そんな負け将棋から題材を(<Mか? Mなのか!?)。

 第1図は3二金戦法。先手がいきなり▲6五歩と仕掛けてきた。
 実は先手の人とはこの直前にも対局していて、その時には▲4八玉△6三銀の交換なしに▲6五歩と仕掛けてきた。その将棋は△6五同歩▲同飛△3四歩▲3八玉△7七角成▲同銀△6三歩という展開になったのだが、どうやら▲3八玉とあとで入れた手が不満だったようだ。本局はその修正版というわけだ。

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 第1図は△6五同歩と取る一手。以下、▲同飛△6四歩▲6八飛△7四歩▲6七銀△3四歩と前局と同じように進んだのだが、そこで▲6六銀(第2図)とされてハタと困ってしまった。

 3二金戦法の「形」ということで△7三桂と跳ねると、▲7五歩(第3図)という攻めがある。

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 応手は多岐にわたるのだが、

■△6五歩は、▲同銀△同桂▲同飛△7七角成▲同桂△6四銀打に▲7四歩(第4図)と強気に行く手があって先手が有利になる。以下、△6五銀▲同桂△7四銀▲9五角で受けがない。

■△7五同歩は▲同銀△7七角成▲同桂(第5図)となり、

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 で、いずれも先手が指せる。

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 第7図の▲4八金打は少し大事なところで、▲4八金と節約するのは△4六桂▲同歩△4七金で少しうるさい。まぁ、要するに△7三桂と跳ねられないということなのだが、3二金戦法にとっては大事件である。
 実戦では△7三金と辛抱し、▲2八玉△4二銀▲3八銀△5四歩……と駒組み合戦へと進んだ。△7三金という悪形にさせたことで満足し、陣容勝ちしようという手順だ。
 そうして辛抱に辛抱を重ねて辿り着いたのが第8図。

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 3二金戦法らしい展開で、悪形だった7三金もしっかり「定位置」に捌けている(もっとも、相手はそう思っていないかもしれないが(笑))。3二金戦法としては理想的に近い陣形だ。
 そして白砂の手番。
 白砂はどう指したか?

△3一飛▲8八角△2四角▲2五歩△1三角▲1五歩(第9図)


3二金戦法が攻めてどうする(泣)

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 このあと、飛車角を攻められてずるずると敗退。そのまま負け倒した。

 よくよく見てみれば、第8図と第9図ではエラい違いだ。第8図では後ろからニラミを利かせていた飛角が、第9図では単なる「攻められ駒」と化している。
 そうでなくても、3二金戦法のコンセプトから言えば、ここは千日手の一手だろう。序盤の不利を跳ね返して、なおかつ先手がもらえる。悪い取引ではないはずだ。

 しかし、実戦心理というのは恐ろしいもので、対局中にはそういうことは考えられなかったのだろう。

 焦りの様子は、実は第8図にもすでに出ている。
 9筋の端歩の存在である。

 ▲9五歩の直前はこんな局面だった。

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 ここから△7三桂▲9五歩

 今なら絶対こうは指さない。▲9六歩には△9四歩の一手だ。それで後手陣が崩壊するというわけでもないし、特に△7三桂が重要な一手、というわけでもないのだから。
 極端に言えば、△7三桂は「破門の一手」である。それくらい、3二金戦法から見たら奇異だし、罪が重い。

 待つ、というのは、とても怖い行為ではある。待っている間、なにをされるか判らないという恐怖が常に伴うから。
 しかし、仮に後手が3二金戦法の使い手ではなかったとしても、本局の流れを考えたら、ここは待つ一手だろう。要するに、強い人は「きちんと待てる」のだ

 3段前後で、棋力がいまいち伸びない。
 そんな人は、このことを少し頭に置いて指すといいかもしれない。

 いい手が浮かんだ、これで攻め潰せる。しかし、そこで一手待つ。
 少し形勢が不利だ。ここは暴れる一手。しかし、そこで一手待つ。

 もちろん、待ってしまったために傷を消された、待っていたらジリ貧になった、なんてなったら目も当てられないが(笑)、少し待つことによって、相手の陣形に新たなスキができるかもしれないし、相手が手詰まりになるかもしれない。
 自分から動いて技をかけるのではなく、待つことによって動いてもらって、そこで技をかける。
 まぁ言葉にすると簡単そうなんだけど(笑)、対局中、そういうことをきちんと考えられるようなら、少しは強くなっているだろうし、かなり冷静な状態だと言えるだろう。
 その真逆の例が、今回取り上げた将棋である(泣)。

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