第18期竜王戦も第3局を迎え、ここまで渡辺竜王の2連勝。ここらで1つ返しておかないとほぼ勝ち目はない、という大事な一局で、挑戦者の木村が取ったのは変則的な矢倉3手角だった。
NHK杯で高橋道雄相手に指したこともある形で、その時は第1図のように早々に△5五歩と突かれて少し困っていたように思う。本局では竜王が△7三桂と早めに跳ねたために第1図のコースは辿らず、結果として第2図へと進んだ。
実際の進行は、第2図から▲2八飛△8五桂▲1六歩△2二銀▲1五歩△4二角(第3図)なのだが、こうなってみると後手だけがなんか一方的に得をしてる感じがする。
まず、第2図で▲6五歩(第4図)はなかったのだろうか?
以下、△7二飛▲9三銀成△8五歩▲7七銀△6五桂▲6八銀(第6図)ともなれば先手有利がハッキリするだろう。△8五歩のところでじっと△5二飛もありそうだが、▲8三銀成△8五歩▲7七銀となると似たような展開になりそうだ。どちらにせよ、▲8二銀不成は誰でも思いつく手だと思うので、それに対するフォローも欲しかった。
また、▲1五歩というにも少し気にかかった。
というのもこの形、▲1五桂という攻め筋もあるのだ。
白砂が学生の頃、振り飛車穴熊を玉頭位取りで退治するのが得意な先輩がいたのだが、その先輩からこんな話を聞いたことがあった。
穴熊相手に端歩を詰めるでしょ、あれ実は悪い手なんだよね。
歩は▲9六歩で止めといて、▲8五歩の形で開戦する。で、▲8四歩△同歩▲9五桂(第7図)って攻めるんだ。9筋は銀桂香が利いてるけど8筋は金銀しか利いてないでしょ。だから桂歩で攻めるならこっちの方が急所なんだよ。
まぁ、常にこれが正しいと言うわけではないが、本局の場合は桂が入りそうなので、▲2四歩△同歩▲1五桂という手がいきなり厳しい攻めとして利いてくる。▲1五歩と突いた形での▲2四歩△同歩▲1六桂という手もあるのだが、2四を攻めるよりは2三を攻めた方がより厳しいことは言うまでもないだろう。
まして、相居飛車の本局では飛車が2八に控えているのだ。ひょっとすると2三辺りで全部精算して、▲2三○△同玉▲1五桂という筋で詰み、なんてこともあるかもしれない。
▲1五歩よりは、▲4六角とでもしておいて、▲3七桂と跳ねる手を見た方が生産的だったように思う。
局面はだいぶ進んで第8図。▲7七銀と受けたところだ。
8六にも利かせておこうという玉頭を大事にする一手で、さすがハ……あ、いやいや、受けの棋風だなぁと思えるが、素直に▲7九桂とでもしておけば優勢だったと思う。
▲2四歩と突き捨てた以上、▲1六桂とか継ぎ歩垂れ歩で▲2三桂とか、桂は攻めに使いたかったものと推察する。しかし、▲7三銀と重く打って受けに回っている以上、ここは徹底して受けるべきだったのではないだろうか?
第8図からは予想通り△8七銀と打ち込まれ、▲同金△同歩成▲同玉△8六歩▲同銀△8五歩▲7七銀△4七金▲5五角△5二飛▲5六歩△5四歩(第9図)で形勢が傾いた。
BSでも解説されていたが、△5五同飛と切って攻めそうなところを、敢えて重たく打った△5四歩が好手である。気がつけば金桂交換の駒得で、△8五歩と△4七金がうまい具合に先手玉を押さえている。自玉は穴熊、あとは寄せればいいという、竜王にとって理想的な展開になってしまった。元を正せば、△8七銀を打たせてしまった罪である。
とはいえ、開き直って打った▲4三歩(第10図)は素直に感心した。
BSでも先崎が盛んに誉めていたが、先手玉が危ないところを敢えて▲4三歩とキャンセル待ちに出る度胸が凄い。こういう大事な局面で、「寄せなければ逆転しますよ」とゲタを預けられる神経は白砂にはない。絶対攻めて自滅するのが白砂の棋風である(笑)。
不運だったのは第10図で△6九角▲7九桂に△7八歩が利いてしまったこと。
本当は▲4二歩成と攻めたいのだが、△7九歩成▲同玉△5八金(第11図)が好手で受けがない。第11図で▲7八銀と弾く手には△8七歩成▲同銀△同角成▲5八飛△6九銀(第12図)だ。
挑戦者には残念な結果だったが、前局と違って本局は挑戦者のよさが存分に出た将棋だった。
正直、竜王奪回は苦しいと思うが(<ごめんなさい)、第4局以降も「木村将棋」でファンを沸かせて欲しい。