前回紹介した鈴木vs郷田戦は、初手から▲７八飛△８四歩▲７六歩△８五歩▲７七角△３四歩▲４八玉△７七角成▲同桂（第1図）という進行だった。今でこそ「よくある展開」に見えるが、冷静に見ればやっぱり奇異な形ではある。
白砂が学生の頃は、▲７六歩△８四歩▲７五歩△８五歩▲７七角△３四歩▲７八飛△７七角成▲同桂（第2図）という『新鬼殺し戦法』があった。米長が書いた変態戦法の本で、７七桂戦法とも通じる部分があったこともあって、白砂もさんざん研究したものだ。
ただ、第1図と第2図を比べると、違いは４八玉と７五歩。第1図の方が曲がりなりにも玉形は安定しているので、こちらの方が理に適ってはいる。藤井が開発した角交換四間飛車の副産物とも言えるが、戦法は日進月歩しているものである。
しかし、実際問題として、第1図はつぶれていないのだろうか?
件の鈴木vs郷田戦は第1図から△６二銀だったが、プロの棋譜を調べてみると、門倉vs金井戦では△４二玉（第3図）としていた。これもあると思う。
なお、その将棋の3週間前にも門倉はvs遠山戦で同じ形を指しており、その時は遠山は△１四歩とし、▲３八玉△１五歩（第4図）としていたが、これなら先手は満足だろう。この形、やはり△４五角問題はつきまとうのである。
ちなみにその将棋は、第4図から▲７五歩△４二玉▲６五桂△８六歩▲同歩△３三角▲６六歩△８六飛▲７四歩（第5図）と進んだ。なんだか第2図の新鬼殺しみたいだが、この展開では1筋の端歩が働いているとは言い難く、先手ペースだと思う。
さっき△４五角問題と書いたが、それに関連すると、先後をひっくり返した形で似たような将棋がある。
▲２六歩△３四歩▲２五歩△３三角▲７六歩△２二飛▲３三角成△同桂▲６五角（第6図）という、「超ダイレクト向かい飛車」とでもいうべき形である。
プロの将棋では、2016年の順位戦で窪田が指している。また、最近では2018年1月の順位戦でも北浜が指している。
どちらの将棋も第6図から△４五桂▲４八銀△５五角▲９八香と進み、そこから、窪田戦は△３五歩▲２六飛△９九角成▲７八銀△４二飛▲８三角成△９八馬▲５六馬（第7図）と進んだ。
ちなみに、窪田の自著『変幻自在!! 窪田流３三角戦法』では、△５五角に「適当な受けはないので▲４三角成。以下△９九角成▲７八銀△５五馬で香得+馬が大きいので後手有利」として早々に打ち切っている。これは３三角戦法の成否に関わる重要な変化じゃないのか（笑）。
実際のところ、第7図は後手も△８二香という攻めはあるものの、△３五歩▲２六飛の交換があまり得をしていない感じでもある。そのためか、北浜戦ではすぐに△９九角成とし、▲７八銀△９八馬▲４三角成△８八馬▲７七桂△９七馬▲４四馬△４二飛▲１一馬△６四馬（第8図）と進めた。
これはこれで難しい進行で、現在のところ駒の損得はないがいずれ４五桂は取られるから後手の桂損。しかし、玉は囲いやすそうだし、攻めの１一香と守りの９九香の交換なので、この点は後手が得をしている。形勢判断は難しいが、ちなみにこの将棋は先手が勝った。
なお、鈴木大介の著書『角交換振り飛車【基礎編】』では、▲７八銀に△９八馬ではなく△４二飛（第9図）とする手を勧めている。以下▲８三角成△９八馬▲５六馬には「△８四香の攻め合いで振り飛車大優勢」だそうだ。しかし、第9図で▲２四歩も結構怖そうに見えるけど……。
またまた「そういえば……」という話になるが、こうなると思い出すのが▲７六歩△３四歩▲６六角という「3手目６六角戦法」である。以下、△６六同角▲同歩△６七角に▲７七桂△７六角成▲６五桂△６二銀▲５五角（第10図）で先手有利、と、ここまでくればさっきまでの話とつながるだろう。『超急戦！！殺しのテクニック』にもこの形が載っている。
なお、これについては、将棋マガジン1996年6月号の「佐藤康光＆森内俊之の何でもアタック」という記事で取り上げられており、森内が△６六同角▲同歩△６七角▲７七桂△７六角成▲６五桂に△６六馬として、▲５三桂成△９九馬（第11図）で後手有利、と回答している。
なるほど、金は取られるものの金と桂香の2枚替えで馬までついているとなれば後手有利という話も頷ける。さわやかな手順だなぁ。
なんだか話がどんどん拡散してしまったが、ここまでの話のまとめとしては、
- 第1図の局面では仕掛けない。△６二銀とか△４二玉とか自陣を整備する。
- 似た形に、後手番のダイレクト向かい飛車や３三角戦法がある。
- もっと言うと▲７六歩△３四歩▲６六角という奇襲戦法もある。
- 実際、第1図で△８六歩や△４五角だとどうなるのかなぁ……
というところか。
実は第1図の先も少し検討はしているのだが、思い出話が出てきて話が長くなったのでいったんこの辺で。続きは未定（笑）。