角命戦法の対抗策

阪田流角命戦法という戦法がある。

『超阪田流角命戦法』という本に載っている変態戦法である。白砂自身も、3二金戦法が外された場合に持っていくことが多い。具体的には、▲7六歩△3二金▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲同角成△同金という手順だ。
「形」が中飛車や急戦向かい飛車などでよく出てくるので、それらと併用で指している人は同じように指しこなすことができる。そういう意味でも、重宝する戦法である。玉が少し薄いのでかなり叩き合いになるのだが、アマチュア同士だとやはり「攻めたもん勝ち」なところがあるので、勝率も悪くない。
zu
ところが、先日指した将棋で、この角命戦法に有力な対策が現れた。

▲3七銀とするのが対抗策第1弾。

詳しい指し方は上記の本を参照してもらうとして、角命戦法は飛車のコビンを攻めるのを基本とする。厚く3七銀と構えるのはそれに対応するためである。こうされると、コビン攻めをすることはできない。

もっとも、ここから早めに銀を繰り出してきて急戦……というのであれば、角命戦法側も対処できないわけではない。盤面右側には金銀2枚がいるのだから、なんとかなるはずである。

ところが。

zu
少し進めた局面が第2図。

3七の銀を受け駒として、玉の整備にかかったのである。

通常であれば、こういった駒は遊び駒になるのでよくないと言われる。たとえば棒銀などでは、この位置に残ってしまうようでは失敗だろう。

しかし、角命戦法の場合は後手側が金銀2枚を右側に配置している。だからそれで差し引き損得なしと考えれば、遊び駒があっても腹が立たない。攻めを食い止めている分だけむしろ働いているとすら言える。

そして玉の整備。第2図を見れば判る通り、後手は金銀2枚で玉を守っているが、先手は3枚でがっちり囲っている。このまま戦いになれば、どちらが有利かは明白だ。
これだけでも角命戦法対策は成功といえるのだが、先手は更によさを求めていく。

zu
第2図からの指し手
▲8六銀△3三桂▲7五歩△同歩▲同銀△7四歩▲8六銀△2一飛▲7七銀△6二金▲7六銀(第3図)

今度は玉頭に位を張ってきた。
非常にのびのびとした形だ。後手は目指す形がなく、どう指せばいいのか全く判らない状態となっている。

zu
先手はこのあとも更に積極的な指し手を続け、結局、この将棋は第4図のような形になった。
狙いはもちろん▲6五歩で、こじ開けて▲6四歩と打てれば完勝となる。

ここから実戦は、△5四歩▲6五歩△同桂▲同桂△5五歩と進んで混戦模様になった。▲6五同桂が軽率な一手だった。△6五同歩ならば▲6四歩と打てるのだが、当然取らない。△5五歩が落ち着いた手で、これでかなり紛れている。正着は▲6五同銀で、それなら△同歩の一手となり、▲6四歩△5二銀▲6五桂と進んで先手が勝っただろう。

このあとも大激戦となり、最後にはトン死で後手が勝ったのだが、作戦的には十分に成功していると思う。
角命戦法側としては、第1図から第2図に至る過程で風車のような指し方をしたのがそもそもまずかったのかもしれない。