どこの世界にも変態戦法を指す人というのはいるもので、まぁここにも一人いるわけなんだが(笑)、というか白砂の通っていた駒澤大学は伝統的にそういう人が多いらしい。
例えば、7七桂戦法は別に白砂が指し始めたわけではなく、10年だか20年だかの昔に将棋愛好会で指されていた戦法である。当時7七桂戦法を指していた吉川クンから聞いた話なので間違いない。
棋友会という、OB現役親睦会での大会のこと。いつものように7七桂戦法を指した吉川クンは、なんととあるOBにボコボコに叩きのめされる。そして、感想戦で衝撃の事実を知った。
「オレの相手、駒沢で7七桂戦法を最初に指した人だって(泣)」
そりゃあ経験が違いすぎたわな(笑)。
さて、7七桂戦法以外にも変態戦法を指している人はいた。今回紹介する清水さんというOBもその一人で、その研究を会報に発表している。
そこではまず、後手番はつまらないという愚痴が切々と語られる。清水さんは筋違い角の使い手なのだ(笑)。そのため、後手になってしまうとまずそこで指す気が失せる。先手勝率7割後手勝率3割という、とんでもない落差も生じているらしい。そんな状態の人だからこそ、団体戦で1/32の確率という「全局後手番」になってしまった悲劇も涙と笑いを誘う。
そんな清水さんが、後手番でも楽しく指せるようにと編み出した戦法がこの「清水流右四間飛車」だ。
▲7六歩△3四歩▲6六歩に△6四歩と突く。
そして四間飛車に組ませて、自分は右四間飛車へ駒組みを進める。それが第1図だ。細かい手順は、通常の右四間飛車と似たようなものなので省略する。
通常の右四間飛車と違うのは、
1.左金が5八にいる
2.角が7七にいる
の二点である。
ここから仕掛ける。
第1図からの指し手
▲4五歩△同歩▲同桂△7七角成▲同桂△3七角(第2図)。
後手の△3七角は実は悪手で、本当は△4四歩とか△4六歩などが正しい。
だが、なぜ△3七角が悪手なのか判らなければ、実戦では△4四歩などと自重はできないだろう。振り飛車なら捌いてなんぼである。
悪手である理由は、実はすぐに判る。第2図では既に後手は術中にハマっているのだ。
次の手が、表題の一手である。
第2図からの指し手
▲5三桂不成△4八角成▲6一桂成△同銀▲4八金寄(第3図)
▲5三桂不成が好手で、△同金は当然▲4二飛成で飛車の素抜き。そこで先に△4八角成と飛車を取るが、構わず▲6一桂成と突っ込むのが清水流右四間飛車のハイライトシーン。△7七角成に▲同桂と跳ねているため、▲6一桂成と取った手が▲7一角以下の詰めろになっているのだ。この時、清水流の5八金左でなければ△4八飛成とされてしまうことにも注目して欲しい(次に△5八龍と王手の先手で駒が取れる)。
よって△6一同銀は仕方がないが、先手は悠々と▲4八金寄と角を取り返す。
駒割りは角金と飛桂の交換。
次は後手の手番だから、△6四桂とか△4七歩とか△2九飛とか、いろいろ手が見える。それで先手が悪いと思う人には勧めないが、そうでなければなかなか面白い戦法なので指してみて欲しい、だそうだ。
先手の主張としては、まず後手の金を取り除いたこと。しかも右桂が跳ねていく理想の展開だ。これだけでも気持ちいい。
あとは、▲2六角もしくは▲1七角が、ほぼ無条件で詰めろの先手になること。角のラインがいかに受けづらいかがよく判る例だ。
▲4八金寄と取るのではなく、▲4八金上と取る手も考えられる。△2九飛には▲4九歩と底歩で受ける指し方で、これはこれで面白い。
また、攻めずにしばらく待って後手に△7三桂と跳ねさせると効果は倍増する。▲7一角△9二玉▲9三金という詰み筋が生じるからだ。
いろいろとパターンはあるので、自分で研究してみるのも面白いだろう。
通常の右四間飛車でも、部分的には通用する面白い指し方だ(ただし、前述の△4八飛成~△5八龍の筋にはご注意を)。