じっと待つ、ということ

せっかく整理していた棋譜が、OS再インストールの際に消えてしまうという痛恨の一撃を喰らってしまった。

現在、もう一度最初っから整理をし直しているのだが、棋譜には必ずコメントをつけるように心がけているので、コメントのない棋譜が出てくると並べて調べて……という作業を行うことになる。
これがまた、昔の若い頃の将棋だったりすると、調べながらなんだか恥ずかしいやら悲しいやら、やっぱ弱いんだな俺って……という気分になってしまう(笑)。特に負けた将棋を見ているときはヘコむ。

今回は、そんな負け将棋から題材を(<Mか? Mなのか!?)。
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第1図は3二金戦法。先手がいきなり▲6五歩と仕掛けてきた。

実は先手の人とはこの直前にも対局していて、その時には▲4八玉△6三銀の交換なしに▲6五歩と仕掛けてきた。その将棋は△6五同歩▲同飛△3四歩▲3八玉△7七角成▲同銀△6三歩という展開になったのだが、どうやら▲3八玉とあとで入れた手が不満だったようだ。本局はその修正版というわけだ。

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第1図は△6五同歩と取る一手。以下、▲同飛△6四歩▲6八飛△7四歩▲6七銀△3四歩と前局と同じように進んだのだが、そこで▲6六銀(第2図)とされてハタと困ってしまった。

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3二金戦法の「形」ということで△7三桂と跳ねると、▲7五歩(第3図)という攻めがある。

応手は多岐にわたるのだが、

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■△6五歩は、▲同銀△同桂▲同飛△7七角成▲同桂△6四銀打に▲7四歩(第4図)と強気に行く手があって先手が有利になる。以下、△6五銀▲同桂△7四銀▲9五角で受けがない。

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■△7五同歩は▲同銀△7七角成▲同桂(第5図)となり、

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1.△7六歩は▲7四歩△7七歩成▲7三歩成△6八と(△同金は▲9五角)▲8二と△同金▲6八金(第6図)で後手陣はバラバラ。

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2.△5五角は▲7四歩△7七角成▲7三歩成△同金▲7四歩△同銀▲6四銀△6八馬▲7三銀不成△6九馬▲8二銀不成△6八飛▲4八金打(第7図)で先手鉄壁。
で、いずれも先手が指せる。

第7図の▲4八金打は少し大事なところで、▲4八金と節約するのは△4六桂▲同歩△4七金で少しうるさい。まぁ、要するに△7三桂と跳ねられないということなのだが、3二金戦法にとっては大事件である。

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実戦では△7三金と辛抱し、▲2八玉△4二銀▲3八銀△5四歩……と駒組み合戦へと進んだ。△7三金という悪形にさせたことで満足し、陣容勝ちしようという手順だ。

そうして辛抱に辛抱を重ねて辿り着いたのが第8図。

3二金戦法らしい展開で、悪形だった7三金もしっかり「定位置」に捌けている(もっとも、相手はそう思っていないかもしれないが(笑))。3二金戦法としては理想的に近い陣形だ。

そして白砂の手番。
白砂はどう指したか?

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△3一飛▲8八角△2四角▲2五歩△1三角▲1五歩(第9図)

3二金戦法が攻めてどうする(泣)

このあと、飛車角を攻められてずるずると敗退。そのまま負け倒した。

よくよく見てみれば、第8図と第9図ではエラい違いだ。第8図では後ろからニラミを利かせていた飛角が、第9図では単なる「攻められ駒」と化している。
そうでなくても、3二金戦法のコンセプトから言えば、ここは千日手の一手だろう。序盤の不利を跳ね返して、なおかつ先手がもらえる。悪い取引ではないはずだ。

しかし、実戦心理というのは恐ろしいもので、対局中にはそういうことは考えられなかったのだろう。

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焦りの様子は、実は第8図にもすでに出ている。
9筋の端歩の存在である。

▲9五歩の直前はこんな局面だった。

ここから△7三桂▲9五歩

今なら絶対こうは指さない。▲9六歩には△9四歩の一手だ。それで後手陣が崩壊するというわけでもないし、特に△7三桂が重要な一手、というわけでもないのだから。

極端に言えば、△7三桂は「破門の一手」である。それくらい、3二金戦法から見たら奇異だし、罪が重い。

待つ、というのは、とても怖い行為ではある。待っている間、なにをされるか判らないという恐怖が常に伴うから。

しかし、仮に後手が3二金戦法の使い手ではなかったとしても、本局の流れを考えたら、ここは待つ一手だろう。要するに、強い人は「きちんと待てる」のだ

3段前後で、棋力がいまいち伸びない。
そんな人は、このことを少し頭に置いて指すといいかもしれない。

いい手が浮かんだ、これで攻め潰せる。しかし、そこで一手待つ。
少し形勢が不利だ。ここは暴れる一手。しかし、そこで一手待つ。

もちろん、待ってしまったために傷を消された、待っていたらジリ貧になった、なんてなったら目も当てられないが(笑)、少し待つことによって、相手の陣形に新たなスキができるかもしれないし、相手が手詰まりになるかもしれない。
自分から動いて技をかけるのではなく、待つことによって動いてもらって、そこで技をかける。

まぁ言葉にすると簡単そうなんだけど(笑)、対局中、そういうことをきちんと考えられるようなら、少しは強くなっているだろうし、かなり冷静な状態だと言えるだろう。

その真逆の例が、今回取り上げた将棋である(泣)。