17番勝負などと言われている羽生-佐藤のタイトルマッチだが、今回採り上げるのは第46期王位戦第6局。矢倉から序盤早々角交換になるという激しい戦いだった。
既に他の人が取り上げているだろうから、ここではちょっと違う角度から見ることにする。
まず問題にしたいのが第1図。
本譜はここで△1四歩と逃げ道を開け、▲6八金打(これもすごい手だ)△5二銀▲9一飛成△6四歩……と進んだ。△6四歩では△5五桂とすぐ攻めた方がよかったらしいが、とりあえずその話は置いておく。
白砂が問題にしたいのは、第1図で△3一金(第2図)と強く当てる手はなかったのか? ということだ。
第2図で平凡に▲5一飛成くらいでは、△6七角成▲同金△同馬(第3図)でこれは事件である。
△7七銀から清算する詰みと、△6六馬▲7七合△同桂成▲同桂△7九銀▲同玉△5七馬▲6八合△6七桂……という二つの詰めろが受からない。
△3一金は龍に当たっているので、これなら▲6八金打と自陣整備の暇はない。
よって、第2図では▲3一同飛成△同玉▲4三金と攻め続けるしかないが、△3二銀▲5三歩成(▲4二金打以下の詰めろ)△4三銀▲同と△3二金▲同と△同玉(第4図)と受けてどうか?
駒割りは金金銀vs角桂といったところだが、金銀の数は圧倒的に先手の方が多い。ただ後手の二枚角も急所に利いている。
また、上記手順中、△4三銀と金を取るところで△4一飛(第5図)という寝技もある。
さすがにここに飛車を手放すのは苦しいが、もう入玉だけ考えるという受けだ。
▲3二金△同玉▲5六銀△3六馬▲4三金△同飛▲同と△同玉▲4一飛△4二銀▲1一飛成△3一金(第6図)といった感じで、ひたすら粘る。
もっとも、第4図も第6図も、佐藤の棋風ではないというところがなんとも……。
こういうジリ貧の指し方は佐藤のもっとも嫌うところだろうから、△3一金を選択しなかったのはわからないではない。ただ、△5五桂を逃して△6四歩などと突くような指し方をみていると、この変化でもいいじゃん、などと思えてしまう(笑)。
このあたりからおそらく佐藤は難しいと感じていたのだと思うが、羽生も結果として決め手を逃してしまう。それが第7図。後手が△3八飛と打ったところ。
本譜は▲4三銀としたが、ここは▲1一金(第8図)が明快だった。
この手は▲3五銀△1三玉▲3一馬△同飛▲1二金打までの詰めろになっている。
本譜にも出てきた△4六角は、▲2五銀△同桂▲同歩△同玉▲2七香(第9図)以下という別の詰み筋があるので意味がない。
後手は△3六飛成と粘るくらいしかないが、▲2五香△同桂▲同歩△同玉▲2六歩△同龍▲1六銀△同龍▲同歩(第10図)として、△3六玉は▲3八金、△3七銀は▲2七金、△3五角は▲5四馬といった感じでどれも寄っていそうだ。なにしろ先手陣は鉄壁である。
ただ、このあたりは逆転してしまうほど形勢が接近しているわけではないので、たいした問題ではないかもしれない。うまい手があればひっくり返ってしまうが、先手には▲6八金打という切り札があるから、よほどのことがない限りそうはならないだろう。
これで王位戦はフルセット。なんだか文字通り「17番勝負」になってしまいそうな勢いだ。