プロの一手 ~第73期B級2組順位戦4回戦~

zu第1図は、猛攻を続けていた後手が△5四歩と手を戻した局面。
駒割りは角と銀香で互角くらいだが、後手は遊び駒がないのに対し、先手は右辺の飛金銀桂が取り残されている。ただし、後手の攻めも3枚の攻めなのでそんなに太くはない。また、遊び駒はないとはいっても、現実問題として後手玉はほぼ裸である。攻めるべきか守るべきか。手をかけるのはいったいどこか……という局面。

ここで先手の指した一手は?

zu第2図は序盤から先手が▲3五歩△同歩▲4五桂と跳び蹴りを仕掛け、その後小康状態となった局面。
▲1六歩は何気ないようだが、次の▲4七銀を可能にしている。また、▲1六歩に△1四歩と端歩のお付き合いをするのは、すかさず▲1五歩△同歩▲1三歩△同香▲1二角がある。

ここで後手はどのように陣形を整えていくか?

zu第3図は先手が桂香交換でやや駒得。先手は▲5四歩と拠点を築き、代償として後手は馬を作っている。
飛車はお互い隠居中だが、後手の馬の働きは今ひとつなのに対し、先手は生角ながら四方をにらんで絶好の位置にいる。少し先手が指しやすい局面だろうが、△2七歩成から飛車を取られるとやや紛れてきそうだ。ここでどう指すか。
やや指しやすい先手と少し苦しい後手、双方の指し手を1手ずつ当ててほしい。

……と、次の一手問題集風にまとめてみたが、少し前の(第73期順位戦B級2組4回戦。……ごめんなさいだいぶ前です)順位戦を観戦した際、これは……と思った一手を集めたものである。

回答はすべて「同じ風味の手」で、これまでも何度も紹介してきた「筋」の一手たちだ。
解答(最善手かどうか判らないので「正解」とはあえて書かない)が見えないよう、少し行を開けてから書くことにする。

zu第1図からの指し手
▲9八玉(第4図)

おなじみの米長玉。もはや一般化された手筋となった感がある。

第1図の8八玉の形では△7九龍▲9八玉△7八成香と、先手先手で迫る手があった。第4図で△7九龍はそれがなんの迫力もないし、▲5七馬△7八成香▲7九馬△同成香▲4七銀くらいで攻め駒が一掃されてしまう。一手で玉の安全度を挙げる定番の手筋だ。

zu第2図からの指し手
△7三桂▲4七銀△8一飛▲1五歩△5一玉▲9六歩△6二玉(第5図)

攻められているのは3筋で、桂が利いているわ玉のコビンだわで、このまま戦ってもいいことは何一つない。であればそんな場所からはサッサと退散するに限る……というわけで、第5図まで、右玉に構えてしまうのが賢い指し方だ。

本当なら対抗して先手も玉を固くしたいのだが、8八玉まで囲っても△9五歩~△9七歩~△8五桂という端攻めが見えているため、手をかけても固くなるという保障がない。結局、後手は自分だけ玉を安全にして、以下先手の攻めをしのぎ切って勝った。

zu第3図からの指し手
▲6八金右(第6図)△3八歩(第7図)

何もしないで後手から△2七歩成▲4八飛△同馬▲同金というのは最悪で、これは後手のと金製造が通った格好だ。

第6図の▲6八金右が、△2七歩成には▲5八飛と逃げる手を用意し、かつ玉を固める味のいい一手である。先手玉は見違えるほど固くなった。

zuそして、そんな一手に対し、指し手を継承する意味で△3八歩(第7図)としたのが後手の意地である。

後手陣は5四と3四の垂れ歩が突き刺さっており、修復をしようにも難しい局面にまで追い込まれてしまっている。また、▲6八金右と固められた先手玉を攻めるというのもこれまた容易ではない。ここは、今までの指し手を継承し、「飛歩交換の駒得」という主張点を作って先手を焦らせるのが、不利になった側の「実戦的な戦術」というものだろう。

zu残念ながら、このあと先手に▲8六桂△9二飛▲4四銀(第8図)という絵に描いたようなスマッシュ(△4四同歩は▲同角△5一玉▲5三歩成)があったためその戦術は功を奏さなかったが、不利になった際にじっと待って手を渡すというのは立派な考え方の一つである。

以上、3つ並べてみた。
テーマは「急がずに自玉を固める一手」である。もちろん緩手になってしまう可能性も十分にあるのだが(笑)、こういう構想がパッと浮かぶようになれば1ランク強くなったと言っていいと思う。