白砂のような変態戦法の使い手にできないのが、「待つ」ということである。攻めることはできるのだが、受けることはできない。また、仮に受けることができたとしても、我慢することができないのである。
どうしても直接手にばかり目が行って、相手に一手指させるとか、じっと待つとか、そういったことが読みの巡りの中に入らないのだ。
そんな白砂が「なるほどなぁ」と思ったのがこの将棋である。
第1図の駒割りは先手の角銀交換。馬も作っているし、後手は持駒がないし、先手有利は間違いないところだ。とはいえ決め手がなく、さてどうするかという局面である。
ここで先手は9七桂と打った。次に▲8五桂から▲7三歩と進めば先手有利がはっきりする、とは『新・対局日誌』の言だが、白砂にはそれでも先手が有利なのかどうかよく判らない。
実戦はここから、▲9七桂△4四銀▲8五桂△6三金(第2図)と進んだ。
ここで先の言葉通りに▲7三歩と打ち、△同銀▲同桂成△同金となったとする。これで先手有利なのだろうか? ▲5五歩~▲4五歩くらいで勝てればいいのだが、後手に桂馬を渡したのでちょっと怖い。もっとも、それくらいの怖さであれば震えずしっかり勝ち切るのがプロなのだろうが(笑)。
実戦はというと、ここから▲8八玉△3五歩▲7八金(第3図)である。
ここで玉を固めて待つ、という発想が白砂には浮かばない。
おいしい指し手は後に取っておいて、確実に有効な手を積み重ねる。実にプロらしい手である。「順位戦ならではの指し方」ということだが、最近の強いプロはみんなこういう指し方をすると思う。やっぱりそれだけ間違いのない勝ち方なのだろう。
こういう指し方を覚えれば、白砂ももう1ランク強くなりそうな気がするのだが、いかんせん棋風がなぁ……(笑)