第44期王位戦は谷川が防衛を果たした。
その全てが見ごたえある攻防で、なんか久々のタイトル戦という気がした。いや、他の棋士の方やファンの方々にはホントに申し訳ないけど、こういうのを見せつけられちゃうと、一流と超一流の差というか、とにかく凄さを感じちゃうよね。白砂みたいなアマチュアでもそうなんだから、プロの人達だったらどれくらいの嫉妬心が芽生えてしまうのか、少し気になってしまう(笑)。
そんな中から、今回は第2局を。
第1図は後手の羽生が飛車回りを受けて△7四歩と突いたところ。
これもちょっといい手筋で、▲7四同飛と取ってくれれば△2五飛で後手がいい。なんとかして受けなきゃ、と考えるのではなく、飛車がズレるとこっちが得するよ、と脅して受けるという発想が秀逸だ。
この手そのものは当然とはいえ、後手は攻める段階で▲2四歩△同歩▲同飛を読み、その受けとして△7四歩を織り込んでおかなければいけないのだから、実際に指すのは難しいと思う。この手が指せるから凄いのではなく、この局面の前にこれを思いついているというのが凄いのだ。
おそらく羽生は第1図で「なんとかなった」と思っていたのだろう(すんません、100%想像です)。
ところが、王位谷川は更にその上を行く。
第1図からの指し手
▲3六歩(第2図)
正確な表現をすると、羽生は△7四歩と突いて受けられるからなんとかなったと思ったわけではないと思う。▲3六歩と打たれて、しかしここで△2三歩(第3図)という「受け」が利くからなんとかなると思っていたのだと思う。
ここでの飛車の取り合いは、玉形も違うし△2八飛や△2七飛の打ち込みもあるから後手有利。とすると飛車交換はできず、▲2八飛△3四飛という展開になる。これなら後手も戦える。
ここまで考えての「なんとかなる」だと思うのだ。
ところが。
本譜、羽生は△2三歩と指さなかった。
△2三歩には、▲3五歩△2四歩と飛車を取り合い、▲8三飛(と一度飛車を打っておく)△7三桂に▲2八歩(第4図)がある。
これはホントにかっこいい手だと思う。
いろんなところでこの手を解説しているのを読んだが、何度見てもしびれる。地味ぃ~な手なのだけれど(笑)、でも、この一手で全てのバランスを取ってしまう。まさに「盤上この一手」だ。
ここで誤算に気づいた羽生だが、軌道修正を余儀なくされるようでは棋勢が好転するはずもない。このあとちょっと波乱があったものの、危なげなく谷川が勝ち切った。
結果を知ってしまえばなんとでも言えるのだが、ここで2-0となったところで、なんとなく谷川防衛ムードができあがったと思う。その原動力となったのは、極端に言えば「ここで踏み込んでも大丈夫」という谷川の読みの深さ、つまりは第4図での▲2八歩にあったのではないだろうか。
ま、ホントに「なんとでも言える」部分での話ではあるんだけど(笑)。