まぁ、まずはなんにも言わずにこの本の表紙を見て下さいよ。
このページを開いた人には「見ない」という選択権ないと思いますが(笑)。
※!!注意!!※
このページには、『九月は謎×謎修学旅行で暗号解読 私立霧舎学園ミステリ白書』のネタバレが(小さいものではありますが)含まれます。未読の方で、トリックを楽しみたい方は読まずにページを閉じて下さい。
ちなみに、内容はこういうものです。
講談社のサイトから宣伝文句を引っ張ってきました。
秋の京都をめぐる暗号の謎 舞妓姿の琴葉が解決!?傑作学園ラブコメミステリ!
“霧舎学園シリーズ”9月は暗号解読!9月。霧舎学園2年生の2学期に入って最初のイベントは京都への修学旅行。琴葉と棚彦は学園理事長のさしがねにより、京都の六角屋敷で、ある秘宝を探す羽目に。手がかりは6枚の地図とプリクラ。プリクラに書かれた「1四銀」の暗号を解く鍵は? 学園ラブコメディーと本格ミステリーの二重奏、「霧舎が書かずに誰が書く!」“霧舎学園シリーズ”。9月のテーマは暗号解読!
もうひとつちなみに、既刊の私立霧舎学園ミステリ白書はこういうものです。
画像をクリックすると、amazonに飛びます。
買いたいという奇特な方がいらしたらどうぞ。
さて。
こんな下らない画像(<こら)を貼りまくったのはネタバレ対策に間隔を開けるためなので、そろそろ本題に入ります。
なんでこんな、「謎×謎」と書いて「なぞなぞ」と読ませるようなド痛い(笑)本をこんなところで紹介するかというと、
プリクラに書かれた「1四銀」の暗号
これです。これですよ。
※!!再度注意!!※
ここから下の文章には、『九月は謎×謎修学旅行で暗号解読 私立霧舎学園ミステリ白書』のネタバレが含まれます。未読の方で、トリックを楽しみたい方は読まずにページを閉じて下さい。
本を読んでいただけると判りますが、これ、実は詰将棋なんです。
京都の街のそこかしこに散らばるプリクラ(<をいをい……)を集めていくと、七色図式が完成する、というもの。
実は、本には図面が出ていません。
著者の霧舎巧さんは「『金田一少年の事件簿』目指してこのシリーズを書く!」なんて脳味噌茹だっちゃったこと言ってますからわざとそうしたんだと思います。別にそれらの駒というかプリクラというか、それが密接に謎と関係してるわけではなく、要するに「そういうものがあった」というだけで済む、だったら図面なんか載せたって意味ない、と考えたんでしょう。
ただ、全くの架空だと厭なので、一応はちゃんとした図面にしたい、とは考えたんだと思います。
では、肝心の詰将棋はどういうものだったのか?
ここでは、本に載っていない図面を載せちゃいます。
なんぼ詰将棋が嫌いという人でも、これくらいは詰められるでしょう。
というか、詰将棋としての体裁をなしていません。▲2三銀成でも▲2三飛成でも▲3二角成でも詰んでしまいます。余詰ざっくざくの詰将棋なんて、詰将棋として成立していません。
……というのはウソで、実はこれ、本物じゃないんです。
本物はこちら。
そう、双玉の七色図式だったんです。
こうすることによって、手順は▲2三飛成△同金▲同角成△3一玉▲3二金までの5手詰めになります。さっきの図にあった余詰も消えます。例えば、▲3二角成△同玉▲2三飛成△4一玉▲4三龍は△4二角合が逆王手で詰みません。最終手の余詰は見ないことにしましょう。
普通の七色図式と見せかけて、実は双玉の七色図式だった……(実はこの間にワンクッションあるんですが省略します)という推理小説だったんですね。
……で。
なんでこの話をこんなとこでするかというとですね……。
これ作ったの、白砂
これホントの話。
霧舎巧さんはこの話を書くにあたり、一応ちゃんとした詰将棋を使おうと思い立っていろいろ調べたらしいです。ところが、持駒なしの双玉七色図式が見当たらない。
で、推理小説同好会の後輩でもあり、かつ将棋愛好会に所属していた後輩に目をつけます(これは白砂のことではありません)。
しかし、詰将棋だったら私よりも詳しい人がいるよ……ということで、その人は同じく将棋愛好会にいた先輩の白砂を紹介しました。白砂と霧舎さんも面識はあったので、というか一緒にリレー小説も書いたりしてたんですが(霧舎巧デビュー作の『ドッペルゲンガー宮』は、この時のリレー小説の設定が使われています。ちなみに、霧舎学園シリーズに出てくる頭木保というキャラクターは、年齢など位置的には白砂が作ったキャラになります。性格その他の文字通り「キャラ」は霧舎さんのオリジナルですが)、卒業と同時に推研と疎遠になってしまったので連絡先が判らなかったんでしょう。
で、その時のメールで、双玉の持駒なし七色図式が作れるか? と依頼されました。
小説を読んでいただけると判ると思いますが、「双玉」「持駒なし」「七色図式」というのは外せない条件です。ただ、白砂が依頼を受けた時は、玉の位置その他の条件は一切特定せずにただ「双玉の持駒なし七色図式」ということだったので、できるかどうか判らないけどとりあえず2、3日下さい、……と返信しました。
最初に白砂が考えたのは、
- 右上に小さく駒を配置すること。できれば実戦形
- 成駒を使わないこと
- 詰手順は一桁にすること
でした。
小説の題材にすることを考えて、難しいことをするのは極力避け、なおかつ見栄えをよくしようと考えたわけです。成駒を使わないというのは、将棋を知らない人のことを考えて、「と金というのは歩が成ったもので、これは金と同じ動きで……」などというムダな説明を省こうと考えたからです。
実戦形を考えてたんで△1一香△2一桂は確定。見た目の座りをよくするために玉は2二にして、守りは金でいいかなぁということで3二に配置。これで玉金桂香が使えました。あとは飛角銀歩で攻めればいいわけです。
双玉ということなので、小説的にも面白い逆王手の筋を盛り込む(小説の中で実際に詰将棋を解かせるシーンを想像してました。琴葉タンか棚彦クンが逆王手の筋に引っかかり、保に「それはダメだよ」と注意される……みたいな感じの)ことを考え、攻方の玉位置は1筋に固定。これで、玉の前の駒が動くと1一の香で逆王手になる、という形ができます。この場合、▲2三○成と駒がナナメに動く必要がありますから、▲1四銀か▲1四角。角は別のところでも使えるだろうと考えて、銀にしました。これで残りの駒は飛角歩。
とりあえず飛角だけを配置してみました。▲4一角▲4三飛です。最初に考えた、できるだけ小ぢんまりという条件のためです。
しかし、これでは正解手順以外にも▲3二角成△同玉▲4二金以下の余詰があります。この▲4二金を打たせないために、飛車を一つ遠くに配置。これで▲4二金という手はなくなりましたし、前述の逆王手筋▲3二角成△同玉▲2三飛成△4一玉▲4三龍△4二角合も発生しました。これを成立させるために、玉位置は1五に決定。これで、歩以外の全ての駒が使えました。
これまでの手順は実は風呂の中でぼんやり考えていたものです。
正解手順は誰でも判る追い詰めだし、逆に不正解手順は逆王手の筋が3つも発生するので面白いし、なんとか使いたかったんですが、歩が活躍する場所がどこにもない。うーん弱った。時間もない。
仕方なく、不要駒として置くことで妥協しました。
詰まない詰将棋や飾り駒があっても可、という依頼だったんで、涙を飲んだ格好です。
ただ、全く理屈がないのも厭なんで、▲3二角成△同玉▲5二飛成を消す、という理屈で△5一歩にしました。実は△4二角合が逆王手なんでこの筋は怖くないんですけど。この辺は「これを作った人は▲5二飛成までは読めるけど△4二角合の筋を失念している云々。よって棋力は……」とか、犯人特定の手段に使う感じでなんとか乗り切る(笑)。かなり無理っぽい話ですし将棋知らない人をほっぽってますが、まぁ「論理的」ということで許してくれるかなぁと。
で、これを次の日送ったら、すぐ返信が来ました。
「これ、最初に攻方玉がない状態で見せられて、そこに玉があると気づくことができるか?」と。
あぁなるほど、そういうことがしたかったのかと、ここで初めて霧舎さんのたくらみ(笑)が読めました。普通の七色図式と見せかけて、実は双玉の七色図式だったというネタにしたいんだなと。
幸いにも(ホントに偶然なんですが)、作品には逆王手の筋がふんだんに盛り込まれています。そのため、
- 普通の七色図式だと余詰だらけ
- 「七色図式」であることは確かなので駒を増やすことはできない
- 配置は別のところから調べたものなので、配置も変えられない
- そうだ、攻め方玉を置いて双玉ならギリギリ七色図式と呼べる
- タテの逆王手が1筋からかかる
- △4二角合の筋でナナメの筋から逆王手がかかる
- よって、攻め方玉はその交点である1五に限定される
という論理で玉位置が特定できるようになっていました。いやぁ、まさに「なっていました」ですね。予想外のことだったんで。
本ではこの辺りの論理構築はほぼスルーされていましたが、それこそ図入りで説明したら面白かったと思うんですけどね。
最初に普通の七色図式を紹介。推理部分で二つの逆王手の筋を二つの図面で紹介。この時、逆王手になる駒の利きを矢印で書くとなおいいです。で、二つの矢印の交点は……ということで、最後に双玉七色図式を掲載すれば、推理を重ねていく過程と、実は双玉だったという事実を視覚で訴えることができます。いろいろ視覚的な遊びを取り入れているこのシリーズにふさわしい形だと思うんですが、そもそも図面が出るという形式が嫌われたんでしょうね。難しい印象を与えるとかで。
まぁ、将棋を知らない霧舎さんにそれを望むのは無理なんでしょうけども……。
「将棋を知らない」で思い出した。
霧舎さん、「▲2三飛成という手を打つことができる」ってのは勘弁して下さい。
将棋を知らない人は、慣用句としての「手を打つ(対処をする)」という言葉につられちゃうんでしょうね。もちろん正しくは「指す」です。
どうでもいい部分ではありますが、でも、どうでもいい部分だからこそちゃんとして下さい。
そんなこったからあることないこと書かれちゃうんですよ……(泣)。