前項でアシストについての解説をしました。
しかしこのアシストというのは、戦術としてはかなり理解しづらい部類に入るようです。読者の中にも、こんな感想を持った人はいるのではないでしょうか。
アシストなんかしなくたって、黙ってオリてればいいじゃないか |
前項の解説の時には、これらの疑問にはあえて答えずに解説を続けました。その方が論点が絞れると考えてのことです(白砂注:事実、伏土竜の講座の一部分をあえて削って編集しました)。この部分については大事なことなので、項を改めて解説することにします。
まず、アシストなんかしなくたって、黙ってオリてればいいじゃないかという疑問について。
確かにオリというのも1つの方策です。
オリが確実に流局へとつながり、展開上有利な相手のアガリを阻止できるのでしたら、オリも間違いではありません。というより、他の人に上がられて余計な点数を失わなくて済むのですから、積極的にそうすべきでしょう。
しかし実際問題、自分がオリたからといって、必ずしも流局するわけではありません。
また、たとえ自分が振り込みをせずとも、展開上有利な相手がさらにアガリを重ねてより有利になってしまうようでは、オリたことが意味をなしません。
つまり、展開上有利な相手がいる局面では、オリは戦術的効果が低いんです。
であるならば、自分がアガれないにしろ、展開上有利な相手のアガリを阻止するために他の人にアカってもらうようにした方が、戦術的に有効なのです。
もう一度基本に立ち返って考えてみましょう。
展開を考える際、「アガられると困る相手」を考察しました。覚えていますね。
これは、正に「アガられると困る」相手です。だからこそ、そういう相手がいた場合のその局では、その人にアガられないよう全力を尽くすのです。
平場であれば、どうしてもアガられたくない相手も存在しませんし、アガられても構わない相手なんていうのも存在しません。点棒の均衡が崩れて、勢力が変わってしまったからこそ「アガられると困る相手」が出現するのです。自分にとっての緊急事態なんです。
自分が点数を失わなくても、また、ツモ支払い分で済んだとしても、相手がアガってしまえば意味がありません。点数はどんどん差がついているんですから。
「アガられたくない相手」を分析しておきながらベタオリして全く抵抗しないのでは、分析の意味なんかありません。
アシストとは、自分の点棒を削ってでも相手のアガリを阻止する緊急手段です。しかし、アシストしなければならない場面とは、緊急事態でもあるんです。そんな時に、点棒を失いたくないからオリる、などという暢気なことを言っていてはいけません。
そういう意味では、アシストは自分がトップを取るための積極的な「攻め」なんです。
アシストなんかしなくたって、黙ってオリてればいいじゃないかという意見が、展開というものを考えた場合には的外れの意見である、ということが判っていただけたでしょうか?
さて、次のアシスト相手にアガられるだけじゃないか。何が嬉しいんだという意見について。
アシストに対しての根本的な誤解があります。
アシストは相手にアガってもらうためのものです。アガってもらえば嬉しいに決まってます(笑)。
アシストをする理由、というものを考えれば判ります。
何度も言っている通り、「アガられたくない相手にアガられること」は自分にとっての損失を意味します。どんな損失かというと、その半荘ではトップが取れなくなる(可能性が低くなる)という損失です。トップにこれ以上走らせてはいけない。ここで他家にアタマ一つ抜け出されてはいけない。これらは全て、「だってそうなると自分がトップを取れなくなるから」という言葉が次に続きます。
そうなんです。大事なことは、
そこで「アガられたくない相手にアガられる」と、自分がトップを取れなくなって困る
ということなんです。
現在トップと20000点差だ。ここでトップがマンガンをアガると自分との差は28000点になる。ツモられると30000点差になってしまう。30000点差なんて、親マン2回でやっとこ逆転する非常に大きな点差です。そうなっては自分がトップを取ることなんてほとんど無理です。マンガンをアガらなければならない自分と、ノミで流せばいい、流局すればいい、誰かにサシコんで終了すればいいトップ者とどちらがラクか、考えれば判りますよね。
しかし、ここで例えば他家に5200を振り込んだとします。トップとの点差は25200点、自分の点棒はさっきまでより減っていますが、トップとの点差はトップにアガられた時より縮まっています。他家が5200をツモったんだとしたら点差は変わらず(アガリ者とトップ者と自分が親ではない場合)、仮に自分が親だったとしても、トップとの差は1300点差が増えただけ(自分が2600、トップが1300点払うため)にとどまります。
自分がベタオリしても、また、攻めていったとしても、トップ者=アガられたくない相手にアガられてしまえば28000点の差がつきます。しかし、自分ではない他家がアガったとしても、最悪のケースを考えても25200点しか差は開きません。サシコミではなくアシスト(アガりの過程での援助)であれば、差は縮まらないことだって考えられます。
果たしてどちらが自分にとって有利な展開でしょうか?
言うまでもありませんね(もっとも、だからこそアシストという戦術が出てきたわけなんですが(笑))。
ついでに言うと、そこで他家にアガられると、そのアガった他家が脅威になるという反論も説得力に欠けます。もちろん、単純に考えてアガって点数は増えたわけですからその他家もトップに近づくわけですが、最終的な問題は自分がトップを取れるかどうかです。ですから、問題になるのはトップと自分の点差だけであり、トップと他家の点差ではありません。
また、アシストでトップが入れ替わってアシストした相手に走られたら……なんていう話もありえません。だって、そんな相手にアシストなんてしないでしょうから。もしもそこでトップが入れ替わってしまうような点棒を彼が持っていたら、最初の分析の時点で「アガられてもいい相手」なんていう結論は出さないでしょう(笑)。
最後に、100%相手の手なんて読めない。安いと思ったらマンガンだった、なんてことになったら目も当てられないという反論についてです。
確かにその通りで、翻牌ドラ1の2,000点のつもりで仕掛けたら、ドラばかり引いたり他の翻牌が重なってホンイツまで伸びたりしてマンガンになるなんてことは、よくある話です。そんなのにアシストしてしまったら目も当てられません。
ですから「アシストしてもあまり意味がない」とお考えになる方がいるのも無理はないと思います。
けれども、たとえ相手のアガリを誘発することになっても、展開という戦術の上でアシストは有効なんです。
なぜならば、その局でアガられたくない相手がいるからこそアシストを用いるのですから、そのための代償が(安いに越したことはありませんが)多少高くついたとしてもそれはそれでしょうがないからです。
ただ「しょうがない」と言い切るためには、展開上有利な相手のアガリを阻止することがどれほど大事かを理解できていること、またアシストしてあげる相手の点数読み、この2つができることが絶対条件です。この2つがないと、アシストがアシストでなくただのプレゼントになっちゃいます(笑)。
相手の手の高さが正確に読めていないと、単なるプレゼンターになってしまいます。ですから、アシストをするためには相手の点数読みが絶対条件となります。
また、どんな読みも100%とはいきません。透視能力で見ているわけではないんですから。ですから、どんな局面にも「紛れ」はつきものです。しかし、紛れはあるものの、アシストは戦術上有効であることは間違いありません。ですから、たまたまそこで紛れに当たってしまっても後悔しないで納得できる精神力が必要になります。納得できるためにはその有用性を理解していないといけませんから、展開を考える上で、「アガられてはいけない相手にアガられないこと」がどれだけ有利かをちゃんと理解していないといけません。
これら2つがないとアシストができない(アシストの有用性が理解できない)という理屈が判っていただけたでしょうか?
要するに、100%相手の手なんて読めない。安いと思ったらマンガンだった、なんてことになったら目も当てられないという意見は、麻雀の一部分しか見ていないんですね。もちろんそういうイタイ事態(笑)も起こりうるでしょう。それは否定しません。しかし、それを恐れてアシストの有用性から目をそらしていてはいけませんし、それが起こらないように読みの精度を高める努力を怠ってもいけないのです。
くどいようですが、もう一度、確認します。
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アシストというのは、上記の考え方を経て生まれた戦術です。
ですから、厳しい皮肉っぽい表現になりますが、麻雀の勝ちをトップを取ることだと思っていない人や、この局で大事なのは「自分とトップの差がつくのを防ぐことだ」ということが判らない人にはアシストの有用性は理解できません。そういう人は、もう一度本講座を読み直して下さい。