将棋コラム


  下段の香に力あり 〜第45期王位戦第1局より〜 Date: 2004-07-20 (Tue) 
 前ページの△3三角から、実戦は▲7四歩△同歩▲9三香成△同香▲9四歩△同香▲同飛△9三歩▲9六飛△7五歩▲2六香(第1図)と進んだ。

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 ▲7四歩の突き捨ては手筋。これがないと香交換した時△9三香から飛車が死んでしまう。第1図は、香交換を生かして▲2六香と据えたところで、この展開は先手が有利に見える。
 しかし、ここで谷川が魅せた。

 △7一香(第2図)

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 自身でも「△7一香以下駒得になって持ち直したかと……」と語ったくらいの好手だと思う。
 もっとも、第2図の局面ではその効果が実感できないだろう(白砂もあんまりできない(笑))。本譜を追って行くと、△7一香のよさが判る。

▲4六角△8六歩▲6四角△8四飛▲9一角成△7六歩(第3図)

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 ▲4六角と出るのはこれくらいだが、△8六歩を利かしたのが地味ながらうまい手。▲8六同飛は△同飛▲同歩△7六歩だし、▲8六同歩も△7六歩がある。
 2筋は後手も怖いところなのだが、強く攻め合いに出たのが谷川らしい積極策だった。
 先手の羽生は▲6四角から▲9一角成だが、本来であればここで香を取れたはず。極端なことを言えば、後手は9九の香を取る展開にはならないのだから、本来はここで香得していたはずなのだ。つまりこれは9筋での香交換がマイナスに働いた形である。羽生の構想が瓦解した瞬間だ。

 冷静に第3図を眺めてみると、玉の固さは先手が上だが、△7七歩成からのと金攻めを防ぐことが難しい。中盤で玉を固め合ったため、後手玉は通常の舟囲いより数段固くなっている。先手からの攻めの糸口がつかみにくい状況だ。第3図はやや後手が指しやすいと思われる。

 第3図からは羽生も鋭い攻めを繰り出したが、絶妙のタイミングで端に手をつけたのがまたうまかった。第4図がその局面だが、▲4二銀成△同金としてもあとの攻めがあるわけではない。▲1五同歩は仕方がないところだろう。

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 ここから▲1五同歩△1七歩▲同香と味をつけるだけつけて、△6七と▲同金△6四歩としたのがうまい組み立て。端に味がついているので、攻めの根っこの桂を責める手がより厳しくなっているのだ。
 このあと、羽生は▲8一馬△同飛▲9三飛成という非常手段で攻めに出たが、さすがに駒損が大きすぎ。潤沢な攻め駒を抱えた谷川は、あっという間に先手玉を寄せてしまった。

 こうしてみると、9筋の香交換はどうだったのか……? ということになる。
 観戦中は振り飛車らしいうまい「攻め」だったように見えたのだが、本譜のように進むと先手が困っている。
 ▲2六香あたりで他の攻めがあったのか、それともそもそも構想がおかしかったのか。残念ながら白砂の棋力ではよく判らない。

 ただ、観ていて引き込まれるほどの熱戦であったことだけは間違いないだろう。
 次局以降にも期待したい。

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