相振り飛車のすすめ
■相振り飛車の手筋 受け
攻めの手筋を解説したので、今度は受けの手筋を。
相振り飛車は「先に攻め倒した方が勝ち」というところがあるので、どちらかというと受けの手筋は少ない。それでも、知っているのといないのでは大きな違いだ。
攻めの手筋同様、一度に全部を覚える必要はない。何度か読んでいけば自然と頭に入っていくだろう。
□▲1七銀から飛角を圧迫
金無双での必修手筋。
第75図は対三間飛車。軽快に歩交換を続ける後手だが、先手にも用意の一手があった。それが▲1七銀だ。歩交換をさせないだけでなく、壁銀を解消し、玉の逃げ道を広げた。これで即有利になる、というわけではないが、覚えておいて損のない手筋だ。
どうしても手詰まりになった場合の最後の手段として、▲2八玉▲1八香▲1九玉▲2八銀という穴熊への組み替えもある(笑)。
ただし、第76図のように、角で歩を交換される場合もある。手損にこだわらず、臨機応変に出入りさせたい。
□▲3九銀と引いて壁銀解消
同じく金無双壁銀解消の手筋。
ただし、序盤や中盤で▲3九銀とするようなことはまずない。わざわざ1手かけて元の形へ戻す手を指さなければいけないようなら、それまでの将棋の組み立てがおかしかったということなのだ。
▲3九銀が登場するのは中盤の終わりから終盤にかけてだ。
例えば第77図。
ウサギの耳をつかまれて苦しいようだが、ここで▲3九銀がこらえる一手。2八から脱出路ができ、かなり玉が広くなった。
相振り飛車では受けの手を指さなければいけないようでは苦しいのだが、うまく手数を稼げば劣勢の時でもなんとかなる。▲3九銀の呼吸を会得してほしい。
□矢倉崩しに対しての受け
パターン4は矢倉崩しの陣形だが、矢倉側もうまく受ければ受け切れる場合がある。
第78図はその一例。
整然とした後手陣。当然次は△4五歩から攻めてくるが、先手にも用意がある。
それが▲8四歩で、△同歩▲同飛で3四の銀を狙う。以下、△4六歩▲同銀引△4五銀に▲2四飛△同歩▲3三角成△4六銀▲同銀(第79図)として受け切った。
これはうまく行き過ぎた例だが、矢倉崩しには「攻め駒を責める」姿勢が大事だ。多少の駒損をしても、受け切ってしまえば上部が厚くなり、入玉などの「攻め」も見える。
矢倉崩しは優秀な陣形だが、少しの形の違いでその間隙をつくことができる。
□矢倉の屋根を作る
4手目△3三角戦法が流行っているが、それに対する最新の対策。
第80図から▲4八銀がその第一歩。
居飛車で指す、というわけではなく、ここから▲3六歩▲3七銀として、それから飛車を振る狙いである。
飛車が2筋にいれば、とりあえず後手はそこからちょっかいは出せない。そうやっていったん攻めを受け止めておいて、ゆっくり矢倉の形を作る。少しでも優位に立とうという細かい戦術だ。
できれば、▲4六歩も指しておきたいところだが、△4二飛から動かれる余地があるのでなんともいえない。3七銀型の金無双でもとりあえず満足と思うべきだろう。
ただ、この指し方には問題があって、あまり早く▲4八銀と指すと、△8四歩と居飛車で来られる可能性がある。これは覚悟しておかなければならない。
純粋振り飛車党の人は、△8四歩とされると青くなること間違いないので、この指し方はお勧めできない。
□相三間飛車の受け
第81図は相三間飛車。▲7六歩△3四歩▲7五歩△3五歩▲7八飛△3二飛という意地の張った展開から、▲2八銀と歩交換を自重したところである。
ここで、△3六歩とされたらどうするか?
よく知られている受けは△3六歩▲同歩△同飛に▲7四歩(第82図)とし、△同歩▲2二角成△同銀▲5五角△3三角▲9一角成△9九角成▲3八香(第83図)で先手優勢、というもの。このあと△7五香▲3六香△7八香成▲同銀となれば香得ではっきりする。
しかし、実際は第82図で△7四同歩と取ってくれない。
△8二銀とされ、▲7三歩成△同銀▲7四歩△8二銀▲5五角△3二飛(第84図)で切れ筋である。いわゆる定跡のウソというやつだ。
では△3六歩が成立するかというとそういうわけではなく、▲3六同歩△同飛に▲2二角成△同銀▲4五角で先手有利だ。飛車を逃げると▲6三角成なので△5四角の一手。以下、▲3六角△同角▲3八金(第85図)として、あとは角をいじめていけばいい。もっとも、有利と言ってもその差は僅かなので、乱戦に自信があるのなら踏み込むのはアリかもしれない。
裏定跡として、この手順も覚えておくといい。第81図で▲2八銀の代わりに▲1六歩(第86図)と突くのだ。
ここで△3六歩は同じ手順で先手が有利になる。また、△6二玉などでは▲7四歩△同歩▲2二角成△同銀▲5五角というおなじみの攻めの手筋がある。正解は△8二銀だが、とりあえず端は受けとくか……と△1四歩と突くとハマる。
▲7四歩と突く。
△7四同歩▲同飛に、先程と同じように△3六歩▲同歩△8八角成▲同銀△5五角▲7七角△1九角成▲1一角成△7二香とすると▲1四飛(第87図)がある、というわけだ。
なんだか冗談みたいな裏定跡だが、もちろんこうはならない。理由は前述の通りである。
自分で挙げてみて驚いたのだが、本当に「相振り飛車特有の受けの手筋」というのは少ない。もちろん受けの手を指さないと言うのではなく(笑)、一般的な受けの手筋が相降り飛車でも有効だ、というだけにすぎないのだが。
それでも、いくつかは特有の手筋として存在する。できればモノにしてほしい。