相振り飛車のすすめ
■相振り飛車の手筋 攻め
いいかげん総論は飽きただろうから(笑)、ここからは具体的な話をしていこう。
まずは相振り飛車の攻めについて、網羅的に書いていこうと思う。
一度で覚えようとしなくてもいいから、なんとなく頭の中に入れておいて欲しい。その局面になった時、きっとそれが役に立つだろう。
□端攻め 1
パターン3の陣形は紹介したが、実際の攻め手順は解説していなかったので、ここで解説する。
相振りでは常識といってもいい手順である。
第38図がその陣形。ここから、先手の攻めが火を吹く。
▲9五歩△同歩▲7四歩△同歩▲9三歩(第39図)
第39図で△9三同桂は▲9四歩で先手よしなので、△9三同銀か△9三同香。一つずつ調べていこう。
まずは△9三同銀から。
▲同角成△同香▲9二銀(第40図)△8四角▲8五桂△9四香▲8一銀不成△同玉▲9三桂成△同角▲8三飛成(第41図)
角をぶった切って▲9二銀で攻めが続いている。
第40図では△7三金もあるが、ダイレクトに▲8五桂と跳ねられるので悪いはずがない。▲8五桂△8四金▲8一銀不成△同玉▲7三桂成(第42図)で先手優勢だ。△8四角の受けも、▲9三桂成が好手で攻めがつながった。
というわけで第39図で△9三同銀は攻めが続く。
今度は△9三同香を調べてみる。
▲8五桂△9四香▲9三歩△9一銀(第43図)▲9二歩成△同銀▲9五香△同香▲9三歩(第44図)
△9三同香には単純に▲8五桂と跳ねる。
△9四香から△9一銀がうまい受けで攻めが続かなそうだが、すぐに成り捨てて▲9五香から▲9三歩がその上を行く好手。第44図は攻めが成立している。
以上のように、2歩あって角が9三に利いていて飛車が8筋にいて桂が8五に跳ねられる形であればこの攻めは有効だ。
ただし、相手の飛車の横利きがあると、△9三同銀の変化第41図以降△8二銀で粘られてしまう(▲9四龍がない)。それさえ気をつければ通じる攻め筋である。
また、もしも歩が3歩あれば、△9三同香の変化で最後に香を走る必要がなく(▲9五香は1歩補充の手。歩があれば▲9五香は指す必要がない)もっといい。
6六角と据えるのがなかなか難しく、実現は難しいかもしれないが、決まれば一発である。ぜひとも覚えて欲しい。
□三間飛車の序盤
第45図は序盤。△6二玉と玉を囲ったところ。
なにげなく見過ごしてしまいそうだが、ここでキラリと目を光らせなければ相振り党とは言えない(笑)。
▲7四歩△同歩▲5五角(第46図)△7三桂▲7四飛△7二金▲7五飛(第47図)
▲5五角の香取りが機敏だ。
△7三桂しか受ける手はないが、▲7四飛から▲7五飛とじっと引いたのが好手。第47図では▲7四歩を防ぐことができない。単純ながら、見過ごされやすい攻め筋である。
逆に言うと、三間飛車を相手にする場合は、△6二玉の前に△8二銀(第48図)あるいは△7二銀としておかなければならない。こんな序盤の一発でやられてしまっては目も当てられない。くれぐれも忘れないように。
□端攻め 2
第49図は対三間飛車。もっとも、浮き飛車になると大体がこういう形になるので、三間飛車と限定はできないが。
ここで先手に2つの攻め筋がある。
一つは簡単に見える手で、もう一つは見過ごしがちの手だ。
両方判れば、相振りに相当慣れていると言えるだろう。
攻め1
▲3三角成△同飛▲2五桂△3二飛▲1三桂成△同香(第50図)
これは「やってはいけない」と言われる代表的な手。第50図となって、駒の損得がなく、後手が桂を手にしただけの結果となっている。
しかし、角を有効活用できる場合にはこの攻めは非常に有効となる。局面によっては踏み込む価値がある。
攻め2
▲1五歩△同歩▲同香△1四歩▲同香△同飛▲3三角成(第51図)
攻め2は気づきにくいが、相振り飛車ならではの手筋。いろいろな著書で紹介されてもいるので、知っている人もいたと思う。
△1四歩と受けた手に構わず▲同香と取るのが意表の一手で、第51図では桂香交換ながら馬を作って先手好調だ。
もっとも、これも見た目より簡単ではない。
第51図からは△3五角▲1五歩△同飛▲同馬△同香▲1七歩△4四角▲9七香(第52図)と進む。
飛車を手に持ったこと、次に▲6四歩や▲7六桂があることなどから先手がいいとは思うが、やや有利という程度の分かれだと思う。
それでも、この攻めが利く場面は相振り飛車では非常に多い。チャンスがあれば狙ってほしい。
□手得の歩交換
相振り飛車で歩を交換するのは重要な手だ。交換できるなら多少無理にでも歩交換はした方がいい。
その歩交換、少しテクニックを使えば大幅な手得を図ることができる。
第53図は先手四間飛車。四間飛車は少し損、ということは以前述べたが、こんな痛快な手順がある。
▲6四歩△同歩▲8四歩△同歩▲6四飛△6三歩▲8四飛△8三歩▲8六飛(第54図)
6筋と8筋の歩を突き捨て、それを十字飛車の要領で拾って帰ってくる。浮き飛車を作り、なおかつ一気に2歩交換することに成功した。これですぐに先手優勢というわけではないが、手得は大きい。
この手順は四間飛車に限らない。第55図のような向かい飛車でも生じるし、中飛車でも三間飛車でも、形によっては指せるだろう。
歩を突き捨てる順序は、「受けが利かない方をあと」にするのがポイントだ。
□6六角は交換してでも打つ
6六角という位置が急所であることは何度も述べた。この角は、場合によっては交換してでも打つのがいい。持ち角のメリットよりも、盤上を制圧するメリットの方が大きいからだ。
第56図はそんな局面。
▲3三角成△同桂▲6六角(第57図)と、交換してでも角を6六に打つ。次になんでも▲7七桂とすれば、パターン3の形が出現する。この端攻めを受けるのは容易ではない。
第58図も同様。馬を作られて苦しいが、とにかく▲6六角と打ってしまえば攻めは続く。△4四歩に▲7四歩△同歩▲8二歩△同玉▲8五歩からガリガリ行って、これは混戦だろう。
通常の将棋では考えられない手順だが、それだけ相振り飛車は「攻めたもん勝ち」の戦法なのだ。
□超急戦三間飛車
『相振り革命』で紹介された三間飛車の超急戦。
出だしは第59図。▲7六歩△3四歩に▲9六歩と打診し、△4四歩に▲7五歩と相振りを目指した、という展開だ。▲7六歩△3四歩▲7五歩スタートでも話は同じだが、どちらにしても▲9六歩は必須である。
第59図で後手は△7三歩と打つ。以下は▲7六飛△3三角▲7七桂△2二飛と相振りの形になるが、ここで先手の攻めが炸裂する。
▲6五桂(第60図)。
▲5三桂成と▲7三桂成の2つの狙いがあるので、後手は6二○と防ぐしかない。
△6二玉は▲7四歩△8二銀(△7四同歩は▲5五角)▲5五角△7二金▲7三歩成△同桂▲同桂成△同銀▲同角成△同金▲7四歩△7二金▲7三銀(第61図)。角を切って攻めればつぶれている。
△6二銀は▲7四歩△7二金▲5五角△5四銀▲7三歩成△同桂▲同桂成△同銀▲同角成△同金▲同飛成(第62図)。
第62図で▲9六歩がないと△9五角の王手龍がある。このための端歩だったのだ。
△6二金が最善だが、▲7四歩△7二銀(△8二銀は▲5五角△5四銀▲7三歩成△同桂▲同桂成△5五銀▲6二成桂(第63図)で▲7四桂がある)▲7三歩成△同桂▲5三桂成△同金▲7四歩(第64図)。▲5三桂成がうまく、桂を取り返せては先手有利だ。
第64図のあと、△6五桂は▲7三歩成。△6二玉は▲7三歩成から▲6五桂。△7五歩が手筋だが、▲5六飛△5四金▲7三歩成△同銀▲4六桂△5五歩▲8六飛(第65図)で先手有利。
実は第60図ではもう先手が有利なのだ。
第59図で△7三歩を打たずに△3三角と回り、▲7六飛△2二飛▲7七桂に△5四銀(第66図)。これで急戦は防げている。
しかし、第66図で先手が悪いというわけではない。▲9六歩が緩手になるおそれはあるが、狙ってみるのも面白いかもしれない。
□ウサギの耳を攻める新手筋
『振り飛車ワールド4』に載っていた、とびっきりの新鮮手筋。
金無双の6筋は急所であることは有名だ。俗に「ウサギの耳」と言われるこの場所は、どんな時でもひとつ突っつけば必ず手になる。
第67図はそんな局面だが、継ぎ歩で攻めると▲6四歩△同歩▲6五歩△同歩が6六の銀に当たって面白くない。わざわざ飛車の横利きを二重に止める陣形を作ったのは、この攻めをするためではなかった。
▲6四歩△同歩▲5五歩(第68図)。
▲5五歩とこちらを突くのがポイント。
△5五同歩なら▲5四角と打つ狙いだ。以下△6三金直▲3二角成(第69図)となれば、次の▲5五銀が非常に受けづらい手として残る。
△5五同歩で△同銀なら、▲5五同銀△同歩▲3五銀△2二飛(△2一飛は▲5四角で王手飛車)▲4四銀(第70図)とする。△3二歩なら▲5三歩から清算して▲3一角、といった具合だ。
▲6四歩から▲5五歩とするのが新しい攻め筋。
▲5五歩の瞬間がやや甘いが、うまく攻めれば効果は絶大である。
□三間飛車に飛車回り
うっかりしやすい形として、第71図のような形がある。▲2六飛で後手は困っている。
過激な手順としては、第72図のような形から▲3六歩という展開もある。自玉頭を突いていくのでやりづらいが、優勢になるチャンスがあれば積極的に攻めたい。
対三間飛車以外でも、この手順が成立することがある。
第73図から▲3六飛△3二飛▲2六飛(第74図)だ。いったん途中下車する▲3六飛が面白い。手品のような手順で有利を確定させた。
以上、いくつか紹介させてもらった。
それぞれ成立する形は違うが、どれも相振り飛車戦では必修手筋と思ってほしい。