相振り飛車のすすめ

■相振り飛車の序盤

 今度は、それぞれの振り飛車についてもう少し具体的に見ていこう。
 三間飛車には三間飛車の、向かい飛車には向かい飛車の長所と短所があり、また、囲いとの相性がある。それらを理解すれば、相振り飛車での大まかな指し方がよりいっそう理解できると思う。



□三間飛車

 主に後手番で用いられる。
 先手で▲7六歩△3四歩▲7五歩△4四歩▲7八飛、という展開ももちろんアリなのだが、たいていは▲7六歩△3四歩▲6六歩△3五歩、という展開で相振り飛車になる。
 三間飛車の一番のセールスポイントは「浮き飛車の形がほぼ無条件で作れる」ということだ。早くに△3四歩、△3五歩(後手の場合)と突き越してしまうので、△3六歩からの交換もスムーズにでき、そのため浮き飛車の形にしやすい。

 手順としては、まずは第18図のように歩交換して浮き飛車の形にする。
 次に、一応玉を囲っておく。とりあえずここでは金無双とする(第19図)。6九の金は不動にしているが、これは特に急ぐ金ではないからだ。場合によってはこのままの方が急戦に強かったりもする。極端な話、相手が攻めてきそうな場合、もしくは自分が攻める1手前に上がるくらいでいい。

 

 この間、相手は歩交換ができない。浮き飛車が歩交換を阻止しているからだ。だから、例えば△4五歩という風に角交換を挑んできた場合、▲6六歩などとしないで▲7七桂(第20図)とする。
 あとは、8筋の歩を突いて▲9七角と上がり(第21図)、最後に銀を7八〜8七〜8六〜7五と繰り出す(第22図)。

 



 8筋の歩を突いていないと、▲9七角の時に△9五歩とされるかもしれない。自玉の側でそんな無茶はしないと思うが、8筋の歩はどうせ突く歩だし、先に8五まで歩を伸ばしておいた方が紛れがないだろう。この手順なら、▲9七角の時にも飛車の横利きがあるので大丈夫だ。
 銀を8筋から進出させるのも大事なところだ。
 陣形としてはパターン2を目指している。もちろんパターン1を目指しても構わないのだが、先に説明した通り、8筋から銀を出していくと飛車の横利きが通ったままなので相手は歩交換ができない。個人的な好みや相手の陣形次第ではあるのだが、できるのならパターン2の陣形を作った方がいいと思う。その方が、三間飛車という戦形のメリットをより活かせるからだ。



□5三銀型三間飛車

 主に後手番で用いられる
 ▲7六歩△3四歩▲6六歩△3五歩、という展開で相振り飛車になった後、早めに▲5六歩▲5七銀(第23図=先後逆。以下同じ)とするのがこの形のポイントである。
 先の通常三間飛車では早めに歩交換して浮き飛車にしたが、5三銀型三間飛車は「矢倉を作らせないこと」に重点を置いているので、急いで歩交換はしない。

 

 第23図からは、▲5五歩▲4六歩▲4八金直▲4七金という形を目指す(第24図)。相手がぼーっとしていたら、すかさず▲3六歩も突いて矢倉にする。
 金銀4枚ががっちり守っていて、いかにも玉が固く感じるだろう。こうやって玉を固めてカウンターを狙うのがこの戦形の狙いだ。
 ▲5五歩と位を取ってしまうのもポイントのひとつで、先手の駒組みをけん制している。あとは、機を見て2?3筋の歩を交換し、浮き飛車にして攻める。
 矢倉を作らせない、というのは、なかなか歩を交換しないというのもそうだが、5三銀の形にして速攻を目指すという要素が大きい。
 例えば第25図。ここで△7三銀▲7八飛△7四歩というのは矢倉を目指すための部分的な手筋なのだが、この場合はすかさず▲6六銀(第26図)と出られてしまう。このように、常に速攻を見せているので、相手はなかなか上部を厚くすることができないのだ。

 

 矢倉への組み換えができなければ攻めの陣形を作るしかないが、▲5五歩が邪魔をしてそれもままならない。攻めも守りも手がかけられないのでは手詰まりは明白だ。それだけ、この5三銀型三間飛車は有力なのである。



□向かい飛車

 主に先手番で用いられる。
 第27図のように、まず角銀で形を作ってから▲8八飛と振る。
 このあとは相手次第だが、厚く矢倉に組むことも、8筋の歩を交換して攻めの陣形を作ることもできる。非常に柔軟性があるのが向かい飛車の特徴である。

 

 矢倉に組むのは、相手が四間飛車以外の時に限られる。四間飛車の場合、モロに矢倉崩しの陣形に組まれてしまうからだ。
 三間飛車の場合、相手が△3六歩と突いてきた時がチャンスである。例えば第28図。▲3七歩を打たずに▲5八金左とするのが矢倉への第一歩。以下、先手の指し手だけ進めると、▲4六歩▲4七金▲3六歩▲3七銀である。
 ただし、相手の金銀が3段目に出ていないのが条件となる。前述の5三銀型三間飛車などが相手の場合、速攻の餌食となってしまう。
 向かい飛車の場合は、第29図のようにいきなり▲3六歩としてしまうのも有力だ。なんだか危なっかしいが、△2四歩は▲2八銀△2五歩▲3七銀でピッタリ受かっている。



 矢倉に組めればそれだけで作戦勝ちになりやすいが、攻撃陣にかける手数が減ってしまうので、どうしても受身の展開になりやすい。攻めが好きな人は、攻めの陣形を整えて先攻することを考えるべきだろう。
 向かい飛車の場合も基本は変わらない。
 まず、87筋の歩を伸ばす。
 できれば先に▲7五歩とすると、後手の矢倉を阻止しやすい。7五歩が狙われるという展開にはまずならないので、伸びすぎに見えるかもしれないが大丈夫だ。
 あとは、歩を交換できたら交換して浮き飛車に構える。また、角交換を狙う、などをすればいい。陣形的には、パターン1を目指すのがいいだろう。



□4手目3三角向かい飛車

 最近出てきた相振りの指し方。後手番専用。
 4手目に△3三角と上がり、角筋を通したまま向かい飛車に組む。第30図の先手と後手を見比べれば、そのスピードの違いが判るだろう。



 この指し方は相振り飛車の最新形であり、これだけで本が1冊書けてしまうくらいなので、ここでは狙い筋だけを簡単に述べる。
 まず、先手が向かい飛車の場合。
 これには、5三銀型三間飛車のように組むのがいいと思う。つまり、早めに△5四歩△5三銀△6四歩としてしまう指し方だ。
 角が自由な分、5三銀型三間飛車よりも得な意味がある。
 第31図(先後逆)のような形が理想と言える。
 もちろん、この形でなくても、普通に金無双からパターン1やパターン3の陣形を目指してもいいと思う。この辺は相手もあることなので、柔軟に対処してほしい。

 

 次に、先手が三間飛車の場合。
 これには、まず8筋の歩を伸ばす。
 先手が矢倉にする気がなければ、すかさず△3五歩と突いていく。以下は向かい飛車と同様に指してもいいし、後手三間飛車のように銀を2筋から上がっていってもいい。
 矢倉に組まれた場合、玉を美濃に囲う(第32図=先後逆)。美濃は上部には弱いのだが、対三間飛車に限っては美濃でも十分に戦える。
 第32図からは▲6八飛と回って攻める。こうなると、シンプルな美濃囲いが優秀だ。もちろんこう簡単には行かないだろうが、この攻め筋は4手目3三角戦法の権利としてあるので、間違いなくこの形にはできる。



□四間飛車

 ほぼ先手番専用。
 後手で▲7六歩△3四歩▲6六歩に△4四歩とはしづらいし(相手が角道を止めているのになぜ自分も止める(笑))、▲7六歩△3四歩▲7五歩△4四歩という展開もいかにも弱気だ。▲7六歩△3四歩▲6六歩△3五歩▲6八飛、といった展開で四間飛車に組むのが現実には多そうだ。
 今まで見てきて判る通り、相振り飛車では浮き飛車を作るのが作戦勝ちへの第一歩となる。そういう意味からすると、▲6六飛と浮き飛車を作りにくい(角筋に入るので)四間飛車はどうしてもイメージが悪くなる。

 形としては、第33図の▲6五歩のように、早めに角交換を挑むのがいいだろう。相手が浮き飛車の場合は特に効果的だ。
 角筋を止めてきたら▲7五歩と指し、▲6四歩△同歩▲同飛△6三歩▲6六飛とする。ここまで指せれば、例えば△4五歩は▲7六飛があるので怖くない。あとは、通常の浮き飛車の指し方をすればいいだろう。

 

 四間飛車の場合、相手に矢倉を組まれないというメリットがあるので、逆にこちらが矢倉に組めれば陣形勝ちできる。そう考えると、▲6五歩のあとは浮き飛車を目指すより、▲4六歩(第34図)とした方が面白いかもしれない。
 以下、△3六歩なら▲同歩△同飛▲3六歩から▲4七金だし、△3六歩とこなければ▲4七金から銀冠に組む。



□中飛車

 相振り飛車で指されることはほとんどない。
 もっとも、だからこそ誰も知らないから自分のものにすれば大きな武器になるのだが。



 いきなりの急戦、例えば第35図から▲5四歩、などという手はまずうまくいかないと思っていい。
 ちなみに第35図以下は△5四同歩▲同銀△同銀▲同飛△4三金▲5六飛△5四歩で単なる手損に終わる。
 それよりも、早く浮き飛車を作れるメリットを活かした方がいいだろう。

 例えば▲5六歩△3四歩▲5五歩△3二飛▲5八飛△4二銀(第36図)という展開なら、いきなり▲5四歩△同歩▲同飛△5二金左▲5六飛△5五歩▲2六飛(第37図)として主導権を握れる。こうなることはまずないだろうが、特に先手番で中飛車に組んだ場合、そのスピードに相手はなかなかついて来られない。そこを付け目に、素早く浮き飛車に構えてしまうのだ。

 

 あとは三間飛車と同じように指すのがいいだろう。5筋の歩を交換している分、三間飛車よりも1歩余計に手に持っている勘定になる。交換の1手は余計にかかっているのだが、先手中飛車と後手三間飛車であることを考えればその1手は帳消しにできる。

 中飛車戦は、完全に力の戦い、構想力の戦いになる。中飛車のイメージにありがちな豪快な展開にはならないと思った方がいい。



 なんとなくではあるだろうが、それぞれの振り飛車の指し方が判ったと思う。
 もちろん相手もあることなのでここで書いた通りの展開にはならないかもしれない。しかし、ここで紹介した基本ができていれば、ある程度の対応はできるだろう。
 というか、してくれ。頼む(笑)。