7七桂戦法は単純な奇襲戦法ではありません。
相手を油断させておいて足元をすくう、あるいは怯えさせて指し手を縮こませるという狙いを持った変態戦法です(笑)。
冗談ではなく真面目な話ですが、7七桂戦法は単純な一点狙いの奇襲ではなく、途中までは「待ち」を基本とする総合戦法に近いです。そのため、定跡は膨大なものになり、少しの違いで展開もガラリと変わります。
しかし、その手順全てを「覚える」必要はありません。7七桂戦法の思想・狙いを理解し、それを実現すべく駒組みをしていけばそれでいいのです。
そのためには、まず7七桂戦法の理想形とは何かという話をしないといけません。□7七桂戦法の理想形
1図を見て下さい。
これが7七桂戦法の基本的な陣形であり、かつ、理想形です。
将棋には相手もいますので完璧にとは行きませんが、しかし、ほぼ確実にこの形には組めると思います。この形になって「あぁ、これで俺の勝ちだな」と思うようになったら、もう骨の髄まで変態戦法に犯されてます(笑)。ちなみに、白砂がそうです(爆)。
パッと見は振り飛車石田流ですが、通常の振り飛車の陣形とは微妙に違うのが判るでしょうか。
こんなところが違います
- 角は持駒になっている
- 金が離れている
- 6筋の位を取っている
- 美濃囲いが金2銀1ではなく金1銀2で囲われている
これらは、お互い独立した特長ではなく、相互に関係しています。
それらがどう関連しているかを含め、それぞれの駒の配置と機能について説明していくことにしましょう。□玉
2八が定位置です。動き方は5九→4八→3八→2八。
最近の藤井システムのように、5九→4八→3九→2八とは動きません。理由は単純で、序盤早々に角交換をするため、▲3八銀を先にするとその瞬間△2八角と打ち込まれてしまうからです(笑)。
升田式石田流の解説を読むと、先に▲1六歩と突いておけば角を捕獲することが可能だそうです。詳しい手順は省略しますが、左銀がのこのこ2八までやってくるという壮大な順です。しかし、そこまでやることもないと思って白砂は普通に玉を囲うことにしています。
もしも「先に▲1六歩」が効くのであれば、7七桂戦法側は3八銀・3九玉の形を作ることができます。この形はこれはこれでそこそこ固いので、そうなればもっと他に手をかけることができ、戦法の幅が広がります。しかしまぁ、これは将来の課題としておきます。
基本的に7七桂戦法は振り飛車なので、玉は飛車の反対側にいます。2八は美濃囲いの定位置でもありますから、特に解説はいらないでしょう。□飛車
7六が定位置です。動き方は2八→6八→6六→7六。
通常の石田流のように、2八→7八→7六とは行きません。7七桂戦法という言葉通り、5手目には桂馬を7七に上がってしまうのでこのルートは取れないからです。
始めにも解説しましたが、角を5七や6六に打って▲8四飛と回るとか、▲7四歩△同歩▲同飛△7三歩▲7五飛として▲8五飛とぶつけるとか、とにかく7六の地点を起点にして飛車交換を狙います。7七桂戦法の成否は、このような捌きが成立するか否かといっても過言ではありません。
さて、最終位置としては7六なのですが、白砂はかなり長い間6六に留めておくようにしています。6六→7六という手はほぼ無条件でさせるので他に手をかけたいのと、△9四角の筋が気になるのと、6六飛型でないと成立しない有効なハメ手があるからです(笑)。逆に、2八→6八→6六という移動は玉の移動よりも先に行います。浮き飛車は無条件で指せるとは限らないからです。7七桂戦法を指す場合、何を置いてもまずは浮き飛車を作ることが肝要になります。□角
持駒です。以上。
冗談はさておき、7七桂戦法は角交換から始まります。よって、7七桂戦法では角は「捌く駒」ではなく「打つ駒」になります。
序盤では角の打ち込みを見せて後手の駒組みを制限させ、中盤では飛車交換のための中軸にもなります。5七角や6六角と据えてからの▲7四歩△同歩▲同飛△7三歩▲8四飛△同飛▲同角という手順は、7七桂戦法の最重要手筋です。絶対に忘れないで下さい。
飛車交換を無事果たすと、今度は角は「切る駒」になります。できるだけ後手陣の重要な金銀と交換するのが望ましいです。現実的には、5三にいる銀と交換するのが最も多いと思います。□金
右金は動きません。
左金は7八が定位置。動きは1手だけ、6九→7八です。
右金については、美濃囲いの要の駒なので説明の必要はないでしょう。
左金の7八金という駒組みはツノ銀中飛車や風車などで見られますが、それと同じ意味合いで、守備力の強化を図っています。
ただ、同じ「守備力の強化」でも、ツノ銀や風車などが居飛車からの攻めに対しての抵抗力を考えているのに対し、7七桂戦法ではむしろ打ち込みを防ぐことに主眼を置いています。序盤は角、中終盤では飛車を打ち込まれないために働いている駒です。特に中盤以降、絵に描いたような「金底の歩」が現れることもしばしばです。
ですので、基本的に左金はこのままでも構いません。この駒はここにいることそれだけで十分に働いています。離れているから中央に活用して……なんていうことは考えなくても大丈夫です。□銀
右銀は3八が定位置。動きは3九→3八です。
左銀は5八が定位置。動きは複雑で、7九→6八→6七→5八と、4手かけてこの位置へ来ます。右銀については右金と同じく美濃囲いの形なので解説は省略します。注目すべきは左銀ですね。5八が定位置と書きましたが、実際には6七に留まることも多いです。
金銀の配置だけで言うと図の上側のような形です。これはこれで良形なので、このまま仕掛けることも十分にあります。ただ、この形ですと6九にも空間ができますので、損得はなんとも言えません。また、6七から、相手の攻めによっては6六へ上がることもあります。後手が金銀などを盛りあげてきて浮き飛車を狙ってきたような場合です。
更に、そもそも6七ではなく、5七に上がることもあります(図の下側)。
これまた損得は微妙なんですが、5七に銀を上がった場合、金が1手6八に寄っただけで非常に好形になるというメリットがあります。将来的に6八から5八金・4七金となった場合でも、形が崩れることはありません。
前項で解説した通り基本的に7八金は動かないんですが、相手の陣形(序盤早々相手が角を手放したので駒組み合戦になったとか)によってはこういう駒組みになることもあります。知っておいて損はないでしょう。□桂
右桂はそのまま。なので省略します。
7七桂戦法の名前の由来にもなった左桂ですが、この桂馬は5手目に跳ねてしまいます。奇襲臭たっぷりのこの手にたまらない魅力を感じるのは白砂だけではないでしょう(笑)。
この桂はここで留まることが多いです。
跳ねるとしたら8五の方です。飛車の項で解説した「▲7五飛から▲8五飛△同飛▲同桂」という手ですね。
一方、6五にはほとんど跳ねることはありません。6五に自分の歩がいるからで(笑)、これはもうどうしようもありません。話としては▲6四歩△同歩▲6五歩△同歩▲同桂なんていう作ったような手順もないではないですが、まず実現することはないでしょう。桂馬が活躍するとしたら序盤戦においてで、先に解説したような駒組みしあっての将棋ではなく、後手がそれを外そうと急戦で来た場合が多いです。
逆に、駒組みになった場合、序盤が済んだら極論すればこの桂馬はお役御免となります。「この桂馬を働かせる」というより、「ここに桂馬が跳ねていることにより相手に桂馬を取らせない」といった感覚に変わるのです。
図を見て下さい。
先手は桂香2枚取れますが、後手は香1枚しか取ることができません。
単純な駒の損得という以上に、この差が非常に重要なのです。
7七桂戦法の玉形は美濃囲いですから。
既に後手には角を渡しています。その上桂馬を渡しでもたら、△5五角△3六桂のセット攻撃を喰らうこと請け合いです。桂馬を逃げている、イコール後手に桂馬を渡していないという重要性が判るでしょう。□香
両香とも動かず。
7七桂戦法において、自陣の香が活躍するということはまずありません。敵陣の香を取って▲2四香、なんていう手はしょっちゅう出てくるのですが、どちらかというとただ取られるのを待つだけのかわいそうな駒です。
だから、というわけではないですが、逆にこの香を取られないで済むチャンスがある場合、それを逃してはいけません。例えば、先ほど出したこの局面。
ここでの▲9七香という手は、一手の価値が見た目以上に高いです。
7七桂戦法の場合、後手は攻め駒不足になりがちです。戦場が78筋と極端に限定されているために、そもそも駒交換があまり行われないからです。先手の場合は、図のように桂香を拾い、角を切って金駒を手に入れ、4枚の攻め駒で攻めることができます。しかし、後手は飛車を打っても香しか拾えないため、攻め駒が不足するのです。
だからこそ、この香を取られないようにできるのであるなら、ちょっとした攻め筋を指すよりは香を逃げるべきなのです。後手は更に駒不足になり、攻めが遅れます。そうなると、先手はよりゆっくりな攻め手順でも間に合うことになります。香を逃げることが、間接的に攻めを早く(後手のと比較において、です)しているのです。
なにより、後手の戦意を喪失させるという大きなメリットもあります。ここから△9九飛成△9七龍と2手かけて取りに行く馬鹿馬鹿しさ(笑)を想像して下さい。
左香だけでなく、右香も(取られるとしたらですが)取られるだけの運命にあります。なにしろ美濃囲いですから、端攻めは喰らうと覚悟しておいた方がいいでしょう。もっとも、先に説明した通り、7七桂戦法では端攻めに必要な歩ですらあまり交換されないのですが。
なんにしても、7七桂戦法において、香は取る駒であり、取られる駒であり、取られないように気をつける駒です。
香を大事にできるようであれば、7七桂戦法の勝率は格段にアップします。