将棋コラム


  振り飛車、受けの極意 Date: 2005-03-07 (Mon) 
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 第1図は前項の▲2五角を選ばす▲7七銀と6六馬に当てる手を選び、△5六馬▲1一龍△6五桂と進んだところ。
 ▲7七銀となった時、「このは△6五桂のとき銀に当たるので一長一短」という山ア解説があったのだが、それがモロに的中した格好になった。

 この△6五桂は振り飛車において好手になることが多い。
 対穴熊戦だとどうしても△8五桂という手ばかりを考えがちだが、こちら側に跳ねる手も十分に効果的だ。上部が厚くなるし、△7三玉と上に逃げる手も作っている。

 第1図を非勢と見た先手の中座は、ここで非常手段に出た。

▲5二と△同飛▲9四桂△同香▲9一角(第2図)

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 と金を捨て、桂を捨て、角まで捨ててと3連発の捨駒である。

 もっともこの手自体は解説があって、「……と、こういう手がないわけではないからあまり後手は駒を渡すことができない」、つまり後手からの強引な攻めを牽制している、と言われていた。しかしこれは明らかに倒しに来た手だ。
「なにかあると勝利に直結するので、一手のミスも許されない」
 とは櫛田長考中の山ア語録だが、白熱した戦いになってきた。

 第2図で考えられるのは△9一同玉と△8一玉。

 △9一同玉と指すと、▲7一龍△8一銀▲9三香△9二桂▲同香成(第3図)まではほぼ一本道だ。△8一銀は当然の指し手ながら手筋。しかし▲9三香の追撃も厳しい。

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 第3図では△9二同飛と取りたいのだが、▲9三桂△8二金▲7二金(第4図)で必死がかかってしまうので、△9二同玉の一手。以下、▲9三桂△8二金▲8一桂成△同金▲9三銀△同玉▲8一龍(第5図)と進むと、「だんだん受けに適さない駒たちが集まって……(笑)」という聞き手矢内女流の言葉ではないが、どうも後手が受けづらい。第5図から△9二銀▲4一龍△2二飛▲2三歩と進んだ局面は、公平に見て先手が喰いついた形だろう。

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「なんかね、(▲9一角を)取っても受かりそうなんですよね」(←できるだけ可愛いイメージで(笑))
 とは山ア語録だが、確かにこの局面、一見して居飛車穴熊がムリをしている感じがする。
 しかし、それを通してしまうのもまた居飛車穴熊という囲い、戦法なのである。

 解説陣がこの辺りの手順を説明し終わるのを待っていたかのように、そしてまた△9一同玉は危険であるという解説陣説を裏付けるかのように、後手の櫛田は力強く△8一玉と引いた。
 ちなみに、この手は矢内が最初に推奨した手でもある。

 ここで▲9三香などという手では△6一桂と金取りの方を受けられて困るので▲8二香。以下、△9一玉▲7一龍△9二玉(第6図)と進んだ。

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 ▲7一龍と指す直前、
これは取る一手。引退かけてもいい。
……こんなとこで引退かけるなんて弱いって言われそうですけど(笑)
 という山ア解説があったが(笑)、ここは一本道だろう。

 さて第6図。

 第一感は▲9六歩、なんだそうだ。
 しかし、第6図で▲9六歩は、そっちを取らずに△6一金とすると龍が死ぬ。この龍を取らせてしまっては先手が勝てない。

こんな手あるのかなぁ(←可愛く)


 と山アが(←矢内ではない(笑))推奨したのが、なんとも筋の悪そうな▲9一金(第7図)。

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 お勧めはできない、との但し書きをいやというほど(笑)つけての解説だったが、要するに▲9一金△9三玉とすれば、さすがに▲9六歩が間に合うのでは? という読みだそうだ。
 確かに、その展開だと玉は9三にいることになるから、▲9六歩に手抜きをして▲9五歩となると事件だ。
 実際に▲9一金が指されてからも「(矢内さんは▲9一金が)見えても言わなかったですよね。(恥ずかしくて)言いづらいんですよ」とボヤくことしきりの山アだったが、指されてみればこれはこれで厳しい。

 ただ、本譜は△9三玉に▲9六歩ではなく、▲8一香成。これも次に▲8二龍や▲7二龍を見て厳しい手だ。

 解説では▲8一香成に対して△7三角や△7三銀、あるいは△8四玉▲8二成香△6一金という受けを推奨していた。
 しかし、頭を抱えながらも(ホント抱えてた)指した櫛田の手順は凄かった。

 第7図から
 △9三玉▲8一香成△7七桂不成▲同銀△8五桂(第8図)

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 解説が「受けないのか、なるほど!」と思わずうなってしまう手順だった。

 この手順がどれだけ凄いのか。
 本当にたびたび申し訳ないが、山アの言葉を引用する。

 第7図は「ここさえ受ければ勝ち」という感じなんで、受けちゃうとこなんだけど、盤面を広く見て、ていうのが振り飛車党としては大切なんですね。バランスが。
 こういうとこで受けようとするから、ボクが振り飛車やった時には食いつかれちゃって(笑)、だから穴熊嫌いだ……みたいな人が多いと思う。
 △7三銀や△7三角といった受けは、相手に駒を渡すことにもなりかねず、そのため渡した駒でまた攻められ……と悪循環に陥ってしまうことにもなる。それよりは、▲8二龍と指されてから△8四玉と逃げることにして攻め合いをした方が活路が開けるというわけだ。
「△7三銀とか△7三角とか、受け一方の手は浮かんでいないんじゃないか」とは解説の言葉だが、結果的にその前へ出て行く棋風が幸いした形となった。

 第8図からは▲7八桂△6七桂▲8六歩△7三銀打▲8五歩△7九桂成▲8四桂△同歩まで後手の勝ち。
 ギリギリまで受けず、最後の最後で△7三銀打としっかり受ける。スピードと距離感がつかめているからこそできる受けの妙技だった。

○       ○       ○

 本筋とは全く関係ないことを一つ。

 山崎解説をまともに聞いたのは実はこれがはじめてだったのだが、手順の解説と棋士の解説が適度に混ざり合っていてなかなかよかった。実際に強いということもあって解説も的を射ていたし。
 また、聞き手の矢内女流と二人のほんわかした解説は高校生のカップルを見ているようでほほえましかった。
「これはね、ダメなんですよ」
「ダメですか」
「そうです。なぜかって言うとね、えっと……」
 といったやり取りは、将棋の解説でなかなか聞けるもんじゃない。

 まぁ、NHK杯じゃこうはいかないんだろうなきっと(爆)。

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